建築から学ぶこと

2014/11/12

No. 449

建築がキープレーヤーになった日に

ロンドンには、1992年からOpen House Londonという、身近にある重要な建築を公開するプログラムが続いている。今年も9月20‐21日に開催され、800を越える見学機会やツアーが用意された。個別の建築の見学機会とは別に、都市の成長と現在に対して建築が果たしている役割を知る機会提供は、市民力を高めるうえでも、観光戦略としても有効である。Chicago Architecture Foundation、国内でも福岡建築ファウンデーションOpen!Architectureなどが継続的に活動しており、世界各地で芽を吹きはじめている。ここで重要なのは、建築の専門家同士ではなく、市民や建築の所有者が輪の中に入った交流であることだ。こうした流れと響きあうように、今年大阪市が主管となって昨年スタートした「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」(11月1日・2日)はそれと響きあうもので、今年は、まだロンドンほどの分量ではないものの、一挙にスケールアップした。来年の準備は始まっているようで、ぜひ長く続けてほしいものだ。

さて、近代建築の名作の宝庫である大阪でのプログラムに、今回私もウォーキングツアーのガイドとして一枚加わることになった。安井武雄の3作品(高麗橋野村ビル1927、大阪倶楽部1924、大阪ガスビル1933)をめぐるツアーである。まず中央区北大江地区にある安井建築設計事務所を起点にし、安井武雄の展示を紹介してから、西に少し歩いた高麗橋で東横堀川を渡って、船場地区の中心部に入ってゆく。3作品はここに点在しているので、目的地の道すがら、船場の名建築や名跡に言及した。たとえば、日本生命ビルの南壁に設けられた懐徳堂の碑。この地にあった町人学問所で大学者・山片蟠桃(やまがたばんとう、1748-1821)や富永仲基(1715-1746)らが育っている。山片が最初に奉公した升屋やこの懐徳堂、今も建築が残る適塾も、船場の中で土佐堀に近い要の場所に位置していた。江戸の末期、蘭学を含め、さまざまな情報は各地から大坂を目指して海を渡り、それらが出会って知恵として発酵することになったのである。近代大阪に花開いた建築文化も、そうしためぐりあう空気を引き継いで生まれたと言えるのではないか。安井武雄の3作品は、懐徳堂の碑からおおよそ等距離に健在である。

 

安井武雄の作品そのものについては、別ページで紹介しています。
https://www.yasui-archi.co.jp/about/founder/

佐野吉彦

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