建築から学ぶこと

2015/01/14

No. 457

困難も可能性もともにある、都市と世界

地域が抱えている問題はそれぞれ異なっている。国土交通省が<国土のグランドデザイン2050>で提示しているキーワード「拠点機能のコンパクト化と圏域のネットワーク化」は、<少子+高齢化>を想定したと思われるが、一律な解をあてはめるものではないだろう。地域事情をていねいに読み解きながら適用してゆくのがよい。場所によっては、拠点機能の衰退を前提とせず、中心部にある空地を機能転換のために積極活用するケースが考えられる。そこにある文化の多様性を、前向きのエネルギーや新たな魅力付けに用いるケースも賢明な策だろう。

いずれの場合も、人がどのように動きを起こすかによって興味深い展開が生まれる。川田順造さん(文化人類学者)は、悲観的に見える時代を乗り越えるためには「問題のありかを考える知的好奇心と想像力、ほかの人々や自然とつながろうとする感覚」が必要だと語っている(朝日新聞2015.1.4)。そのさきにあるのは積極的でしなやかな働きかけということになる。「人間には未来志向のDNAが備わっている」と述べる川田さんは一歩前に進む勇気を与えてくれる。

先日パリで起こった銃撃事件は、不安定な世界を背景にしていることは事実だろうが、フランスの中の重大な国内問題/都市問題であるとも言える。本来、この国には、都市における多文化共存、あるいは多文化による都市形成について注意を払ってきた歴史があり、現代パリはその上に築かれた。事件では一気にカタストローフに導かれてしまったが、予兆とも言うべき訴訟や対立はいくつもあって、それを乗り越えるための知恵はすでにあるはず。ここからどのように回復するのか、蓄えた経験の出番にぜひ注目したい。この事件には、日本が都市再生のために本当に大切なこととは何かを学べる期待があると思う。

佐野吉彦

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