建築から学ぶこと

2015/01/21

No. 458

新たな関係が生まれた、20年目の日

阪神大震災から20年目の1月17日、神戸中山手にあるカトリック神戸中央教会聖堂でガブリエル・フォーレの「レクイエム」の演奏があった。この日は、カトリックのミサ典礼に組み込んで、曲の間を置きながら進められた。稀有な試みである。演奏は延原武春さん指揮のテレマン室内合唱団/室内オーケストラ。彼らは発災後、避難所などでボランティア演奏を続けたり、しばらくは、毎年の震災記念日にカトリック夙川教会聖堂(西宮市)でこの曲を演奏していたりした(彼らの練習場は今もこの聖堂の地下にあり、楽団も聖堂も被災しながらそれを乗り越えた)。それは、バッハ・テレマン・ヘンデルなどで高い評価を得ている彼らの、音楽家としての底力になったと思われる。

この日司式をした池長潤(前)大司教は、被災した3教会の統合・再建に取り組み、中山手の地に、村上晶子さんの設計による神戸中央教会聖堂と社会活動の拠点を創設した。神戸市立美術館が現有する南蛮美術は、池長孟(はじめ)氏の収集によるものだが、三男である潤氏も、文化育成にも多くの貢献をしてきた。夙川教会聖堂が2009年に西宮市の景観形成建築物に指定されたおりの記念演奏で、同テレマンの演奏を聴いて惚れ込み、それから彼らを神戸中央教会での定例の演奏機会に招いたのもそのひとつである。

そのような、人が人と出会う経過があって、2015年1月17日の演奏が実現した。それがミサ形式で設営することが当日正式に明らかにされたことが示すように、キリスト教信徒に限定しない、広がりのある鎮魂の趣旨が感じられた。この日のひとつの演奏は、多くの人のつながりを断った20年前の阪神淡路大震災以降に、別のあらたな関係が生まれていることを示唆する。1995年に市民同士が互助する動きが生まれ、既成の組織が社会に根を下ろし始め、1998年にNPO法がスタートし、社会が連携する試みが熟してきた。それらはまだまだ十分なものではないが、地域が生き続けるためのしなやかな力となるだろう。

 

佐野吉彦

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