建築から学ぶこと

2015/01/28

No. 459

適正な「公」をつくりだすために

昨年12月に表彰式があったサントリー学芸賞受賞作品を、3冊読んだ。まず、木琴/マリンバ奏者・通崎睦美さんの<木琴デイズ -平岡養一「天衣無縫の音楽人生」>。ひとりの音楽家が木琴とともにあった生涯をたどりながら、戦前戦後の日米両国を活写し、楽器が生み出した文化を切り出す快作だ。大西裕さんの<先進国・韓国の憂鬱 -少子高齢化、経済格差、グローバル化->は、冷静にこの国の政治・経済問題と、民衆心理の変化を読み解きながら、結果として日韓が共有できる課題や基礎情報を提示している。それぞれの本から、歴史や未来は国境をまたがって存在してきたことがわかる。

もうひとつ、中澤渉さんの<なぜ日本の公教育費は少ないのか -教育の公的役割を問いなおす->も面白かった。彼のねらいは副題のほうにあると言えるだろう。教育は民主主義社会を均等に支えるはずなのに、日本において位置づけは弱い。税の使途として、教育時期はずっと軽んじられてきたと指摘する。そこには選挙民がまだまだ<公>の概念を構築することができておらず、それが、税のベネフィットについて論じない、教育政策を論点に取り上げない政治家/政争を生んだ可能性もある。とかく増税忌避論と小さな政府論に向きやすい世論に逃げ込まずに、社会を支えるべき教育基盤+知的基盤を確実に形成すべきだと中澤さんは感じているようだ。

彼は、税とその使われかたへの関心と理解は、民主主義社会の根幹であると考える。そこから市民が責任を持って「公」を構成するダイナミズムが生まれるのだ。いま国境を越える活動への課税をめぐる問題がクローズアップされているが、果たしてどのようにグローバルで、しかし適正な「公」は定位させることができるだろうか。既に、ものごとを国境で切り離すことができない時代に入っているのである。

佐野吉彦

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