建築から学ぶこと

2015/07/01

No. 480

心地よいブレンド

北康利さんによる近刊「最強のふたりー佐治敬三と開高健」(講談社2015)は、サントリーを率いた佐治敬三(1919-99)という旋律と、小説家・開高健(1930-89)というもうひとつの旋律を束ねあわせた快いハーモニーである。良く知られているように、開高健は寿屋(サントリーの前身)で歴史に語り継がれる名コピーを残している(*)。両者は生涯にわたって親密な間柄であったが、それぞれが拠って立つ精神には相違があり、北さんはそれをていねいに語り分けている。ときに静かな哀しみがあふれ出し、ときに躍動するロマンが躍動感を導き出す。「開高さん」にはどちらかと言えば親しみをこめて、「佐治さん」には畏敬の念を宿らせつつ。

著者は、それぞれの物語を重ねあわせたり、ひとつのエピソードで巧みに物語を入れ替えたり、巧みな技を存分に駆使する。ページをめくるたびに新鮮な驚きがあるのだが、この本のちょうど真ん中あたりに「われら愛す」の歌詞が登場する。終戦直後に、新しい国歌となることを想定して公募で選ばれたいきさつが紹介されている(歌詞:芳賀秀次郎、作曲:西崎嘉太郎)。これはすがすがしい名歌だと思うが、このくだりは、分水嶺として一挙にテンポが上がってゆく注目ポイントである。もうひとつ言及するとしたら、この本には北さんが父・佐野正一(安井建築設計事務所の社長・会長を歴任1921-2014)の晩年に行ったインタビューからいくつか引用がなされており、旧制高校時代の佐治敬三氏の姿や、サントリーホールを実現するプロセスにかかわるエピソードが埋め込まれている。

あらためて佐治敬三氏は、建築がもたらす効果をふまえて、そこにさまざまな願いを託した人であることが理解できるが、この本を読んだ後に開高健氏の本を読み返してみたら、氏がブラジリアの都市計画と建築を稠密に語った箇所を発見した(「オーパ!」)。恐ろしく深い洞察で、私はその部分に傍線を引いていたが、引用するには表現に艶気があふれ過ぎるので控えておく。

 

(*)「人間」らしく やりたいナ/トリスを飲んで 「人間」らしく やりたいナ/「人間」なんだからナ(1961)

佐野吉彦

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