建築から学ぶこと

2016/04/20

No. 520

よい土壌:福島と熊本

熊本県は農業産出額や生産農業所得において、全国ベストファイブの常連である。豊富な水には恵まれるが、がんらい肥沃な土地ということではなく、むしろ弛まぬ努力がその結果をもたらしている。農に取り組むにも、活火山である阿蘇は時に荒ぶる存在だし、風水害に見舞われることが多い。そして今回の大地震となるわけだが、熊本はぜひ自然災害を乗り越えていってほしいものである。じつは東日本大震災で大きな被害を受けた福島県も、農業はずっと上位にランクされており、どちらの県も農業の活力を維持することによって、地域力が高められていった歴史を持つ。
熊本で最初の地震があった翌日、私はその福島県の郡山にいた。郡山は安積(あさか)の地、すなわち郡山盆地にあって農業が流通する核であり、交通の要衝である。人とものの往来が豊かな文化を育てた。<奥の細道>における松尾芭蕉も、南の白河から北の白石へ抜けるのに2週間ほど要しているから、このあたりの縁と居心地になじんだと見える。
ここは、近代には多くの優れたモダニズム建築も生まれ、品格のある都市に育った。たとえば、郡山市は平成20年に音楽都市宣言を出しているが、その基盤には長年にわたって根付いたアマチュアの音楽活動があった。この音楽の土壌に才能が花開いてきた。当地の医者の家に生まれ、この盆地のいろいろな学校の校歌を作曲した、国際的に知名度の高い作曲家・湯浅譲二さんもそのひとり。有名な菓子屋の家に生まれた指揮者・本名徹次さんも加えたい。<ああ栄冠は君に輝く>や<六甲おろし>を作曲した古関裕而さんは福島市生まれだが、郡山市民の歌を作曲している。
こうしてみると、農の力と、都市の力、そして文化力は好循環するようだ。もちろん、忘れてはならないのはよい土壌を維持する努力である。

佐野吉彦

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