建築から学ぶこと

2016/05/11

No. 522

敬意を払おう、弘前に。

品格を感じさせるまちのなかでは、弘前市はトップランクに置くことができるだろう。津軽藩の城下町にして大学都市。人口約18万人の都市は、青森県西部にあって、秋田県との古くからのつながりがあり、地域の中核である。ここは戦前には、陸軍第八師団が置かれていた。日程を図ったわけではないのだが、所用で弘前を訪ねた日が、今年のやや早い桜の満開の日にあたり、かの有名な弘前城の桜を味わう機会に恵まれた。よく知られているように、この桜の質を保つためにりんご栽培の知恵と経験が活かされており、見事な仕上がりの桜が古城を幾重にも取り巻いている。
城を一歩出てみれば、至るところに、弘前の歩みの中で形成された良質なまちなみ、銀行や学校、教会などの多様な様式の近代建築が穏やかに位置しており、見ごたえ十分である。この地の明治には豊かな財力もあったが、先取りする知的意欲があったことが理解できた。それはこれからの弘前の都市づくりの大切な原点となる。近代建築を保存し活用することは、都市景観を整えるだけでなく、地域の歴史と基盤を確認しあう上で意義のあるものだ。
加えて着目すべきはこの地に多数残された建築家・前川國男(1905-86)の初期から晩年にわたる作品群である。弘前市役所や市民会館、市立博物館など、弘前は前川がもたらす成果に長い期間にわたって認め、信頼を寄せ続けた。その価値を市民が正しく認めてその維持に力を尽くしていることは、さらにすばらしい(前川國男の建物を大切にする会)。現地で配られている総括的なガイドマップにも<前川國男作品>というマークが付されている。建築家にとっても、建築にとっても、もちろん市民にとっても幸せな環境が整っていると言って良いだろう、弘前というまちは。

佐野吉彦

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