建築から学ぶこと

2016/05/25

No. 524

重みのある場所:フィラデルフィア

フィラデルフィア(ペンシルバニア州)は、アメリカ合衆国草創期の首都である。この街にある自由の鐘であるとか、クライストチャーチという名の教会とか、ベンジャミン・フランクリンにちなむ歴史遺産などは、この国の歴史を始めるにあたっての重要な隅石であった。そもそもこの街の名前は兄弟愛という意味であり、ここには壮大な志がこめられている。17世紀にはグリッド状に都市計画が設定されているが、すでに来るべき都市の充実期を構想できていたように感じられる。さて、このグリッドが西に向かって谷を越えたところに広がっているのが1755年創設のペンシルベニア大学で、今日に至るまで街の創造力を涵養する要となっている。
キャンパスにはルイス・カーンや槇文彦さんの作品など、興味深い建築が並ぶが、1929年に竣工し、ヴェンチューリ+スコット・ブラウンによって1997年に改修されたアーバイン・オーディトリアムは、風格とともにまさに知の象徴である。毎年国内各地で開催されるアメリカ建築家協会(AIA)大会では、そういう磁力のある場所を選んで8万人を越える会員の中からフェロー会員の称号授与を行ってきた。今年は158人が選ばれた。この中には外国人建築家も数名含まれ今年は9名の名誉フェロー会員のひとりとして私も選ばれた。授与式では同時選定のチリやノルウェイの建築家らと隣り合わせであったが、大会期間中、彼らがそれぞれの国で建築をきちんとつくりあげ、社会的責任を誠実に果たしてきた姿勢に触れることができた。かれらと<志>を共有できたことはなんと有意義で光栄なことだろう。2016年5月20日。言うまでもなくフェローは現役であり続けなければならないので、ひときわの重みを持つフィラデルフィアでこの称号を受けたことで、あらためて背中を押される思いがした。

佐野吉彦

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