建築から学ぶこと

2016/11/16

No. 548

この継承も、どの継承も成功してほしいもの

8年前のアメリカ大統領選で、バラク・オバマ氏は勝利演説の中に具体的な地名と情景を折り込んでみせた。「われわれの選挙キャンペーンは、デモイン(アイオワ州)の裏庭や、コンコード(マサチューセッツ州)のリビングルームや、チャールストン(サウスカロライナ州)のポーチから始まった」というものである。これらは、アメリカの多様な風景を満遍なくカヴァーするだけでなく、それぞれを開拓、最初の移民、奴隷制といった歴史に対応させていた。これで聴き手の頭の中にうまく画像が描かれる。レトリックに留まらない見事さは、今回のドナルド・トランプ氏の勝利演説には足りなかった。
もっともトランプ氏は中心市街地再生やインフラ再建、その先に雇用創出があることは強く述べており、都市政策の推進は期待できるかもしれない。じつは2009年1月のオバマ大統領の就任演説にもインフラへの投資への言及はあったが、そこには「われわれの商業に栄養を与え、人々を結びつけるために」というアメリカの未来を示した文節が添えられていた。新大統領にも明年1月にそれを上回る哲学的なメッセージが現れることを期待したいものだ。(*1参照)
その同じ1月、退任直前のジョージ・W・ブッシュ大統領は後任のオバマ氏はじめ、元大統領たちをホワイトハウスに招いた。大統領は「成功してもらいたいんだ」と 次の大統領に語りかける。「民主党だろうが共和党であろうが、そんなことは関係ない。わたしたちはこの国のことを深く思っている…われわれはみな大統領という職務の前では個人など消し飛んでしまうとわかっているのだから」と。(*2参照)そうしてアメリカは歩みを続けたのである。8年後の選挙後、速やかにオバマ大統領はホワイトハウスにトランプ氏を招き入れ、同じようなことを伝えたのではないか。これからアメリカがどう進むかには他国民として大いに関心を払いたいが、継承する局面においてそれぞれがどのようにふるまうかは普遍的な話。それも重要な関心事である。

 

(*1)「建築から学ぶこと」第166回(2009.1.28)参照
(*2)「プレジデント・クラブ」ギブス+ダフィー著 2013:柏書房

佐野吉彦

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