建築から学ぶこと

2016/11/23

No. 549

長く粘り強い交渉が生む平和

2004年、中露の国境が確定した。長い国境線をめぐる紛争の歴史は長く、1969年のダマンスキー島事件は中国とソ連の決定的な亀裂を招いた。それもソ連解体の直前に概ねのまとまりを見せ、さらに時を経て、ウスリー川に浮かぶいくつかの島の所属をひとつひとつ確定することによって、批准に至った。最後の決め手となったのは、長く交渉に携わった両国当事者の間に育まれた信頼関係、そして実情を勘案した丁寧な線引きである。この「相互に受け入れ可能な妥協」が成立する経緯とロジックは「北方領土問題」(岩下明裕著、中公新書)に詳しい。
私はこの本が2005年に出た折、向きあっていたいくつかの課題を落着させるために、この本にある記述をずいぶん参考にした記憶がある。ここから、話は必ずまとまる(まとめる)ものだ、という確信を得た。そのおかげで、そのとき向き合っていた相手といまも良好な関係が続くのだから、まさに私にとって座右に据えるべき書となった。大佛次郎論壇賞(第6回)という評価を受けているのは、この本が普遍性ある知恵を宿しているからかもしれない。
日本とロシアの間に横たわる北方領土問題についてはまだ交渉が続いてゆきそうだ。これについても、突然ヒーローが現れて解決するものではないだろう。一般的に、見事な大岡裁きも、その場の駆け引きの巧拙以上にこれまでの経過と現実をいかにふまえるかが鍵となる。そのような大統領職の勘所を、オバマ大統領はトランプ氏に会って伝えた可能性があるが、自らの任期で解決できなかったロシアや中東の問題を具体的に託したと想像もできる。発想の異なる後継者にうまくバトンが渡ることによって、難題を乗り越える場合があるからだ。

佐野吉彦

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