建築から学ぶこと

2017/02/15

No. 560

人がつなぐもの、建築がつなぐもの

2016年、ル・コルビジェの作品群が世界遺産に登録された。「ル・コルビジェの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献」というのが正式な呼称である。この建築家の幅広い影響力を明らかにするために、日本を含む7カ国にまたがる23作品を構成要件にしたのは適切であり、これで、ひとりの建築家の精神が世界に放散・定着した証拠を示すことができた。平行してフランク・ロイド・ライトによる米国内の10作品が世界遺産登録を目指している。今後の成果が期待されるが、ライトの普遍的な価値を示すスト-リーづくりが求められているようである。仮定だが、帝国ホテルが現地でオリジナルの状態で残っていれば、建築を通じて二国間が結びあうという言い方ができたかもしれない(山邑邸は健在ではあるけれども)。日本でライトの歩みが始まったところから、弟子の遠藤新やアントニン・レイモンドらによる技術や人材の展開が起きたのは興味深い。建築家の魂が別の地で開花するのは、ワクワクする話である。
先日、カトリック信者であった高山右近(1553-1615)がローマ教皇から「福者」の認定を受けた(「聖人」の一歩手前)。その記念式には、右近に縁ある地(武将としてのゆかり、あるいは地位から追放された後のゆかり)の首長らも招かれ、さらにアジア中心とした数カ国の司教たちも登壇していた。このつながりはその人生がもたらしたものと言えるだろうが、右近は布教のために旅をしたのではなく、多くは強いられた移動であった。記念式の光景は、かつてのつながりを活かした新たな人の縁の可能性を感じさせる。同じような縁づくりを、徳川家康に仕え、大阪城や二条城、日光東照宮をはじめとする普請に携わった棟梁・中井大和守正清(1565-1619)を切り口にして試すこともできそうである。右近と同時代を生きた中井正清と、中川家の後継たちによって、すぐれた建築技術が各地で結実したところは、むしろル・コルビジェの人生と似たケースである(谷直樹氏からの示唆による)。この場合、異なる場所の成果をつなげば、日本建築の本質がさらに解明できそうな予感がするのだ。

佐野吉彦

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