建築から学ぶこと

2017/03/15

No. 564

日常の災害から

建築にかかわる災害の約8割が日常災害に由来すると言われる。転倒や転落、入浴中の溺死など、いろいろなタイプが該当する。こうした災害にはすべて原因があり、決して不慮の事故とは言えない。建築の設計者には矛盾した要求条件をまとめあげる使命と責任があるが、とりわけこうした災害発生を防ぐために全力を尽くさねばならない。建築基準法には、手摺の設置や耐火性能、換気面積をはじめ、建築の安全性にかかわる多くの規定がある。そうした法令や条例を守ることは最低限必要であるが、法規がどのような日常災害を想定しているかを理解しておくことのほうがさらに重要かもしれない。真の問題は階段に手摺があるかどうかではなく、それによる人の滑落が起こるかどうかなのである。そういう理屈は、建築構法の基本原則に盛り込まれているはずである。思い切ったデザインを試みる場合は、こうした知恵に立脚しながら危険に対応する策を講じることが望ましい。

また、日常における事故はあいまいさの中で起きやすいものである。おさまりが解決できていない図面は論外だが、発注者と設計者、施工者のあいだの盲点、情報共有不足をいかに消すかも鍵となる。施工段階で課題を発見したら、誰が費用を負担するかはともかく、速やかに解消しておかなければならない。また、発注者に引き渡す時点において、あるいは設計途上において、使用時の安全対策について十分な情報提供をしておきたい。機器の定期的なメンテナンスは、建築がただしく能力を発揮するために不可欠であることは特に念を押しておくべきであろう。となると、ながらスマホで起きる転倒事故とか、ノロウィルス感染とか、新しい社会事象を建築として解決できることはないかどうか、創造的思考によって臨む姿勢も重要である。

佐野吉彦

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