建築から学ぶこと

2017/04/19

No. 569

人を育てはじめる季節に

この春、山形大学工学部に建築・デザイン学科、静岡理工科大学理工学部に建築学科がスタートした。これら地域には建築学科が少ないのだが、これからは学内外の専門家が連動して、地域のクオリティの要の役目を担うことを期待したい。また、工学院大学近畿大学に続いて、芝浦工業大学の建築系学科が、4月からひとつの建築学部にまとまった。開設式典で、学部長である堀越英嗣さんは<「建築」という言葉は時代遅れに聞こえるかもしれないが、多様性の時代だからこそ、変わらない価値を表現することが大切になる>と述べている。眼差しが正統的であることは、社会のプロに対する信頼を高めることにつながる。ぜひ芯のしっかりした人材を育てあげてほしいものだ。
ところで、大学が育てるべき人材をめぐって、今春の京都大学の入学式で山極壽一総長(註)が切れのある話をしている。ボブ・ディランの「風に吹かれて」の歌詞を引き、<大学には、答えのまだない問いが満ちている。常識にとらわれない発想とは、これまで当たり前と思われてきた考えに疑いを抱いたとき、それに目をそらさず、真実を追究しようとする態度から生まれる。どんな反発があろうと、とっぴな考えと嘲笑されようと、風に舞う答えを、勇気を出してつかみとらねばならない>(一部省略)と説いている。ボブ・ディランのノーベル賞受賞はタイムリーなできごとだが、山極さんは自立した思考に基づくことの重要性を語ろうとしている。一方で、法政大学の田中優子総長(註)は「自由を生き抜く実践知」という言葉を使っている。田中さんによる<自由とは、権威や組織やまわりの空気に寄りかからず、自分の力で考え、自分の考えにもとづいて自分を律して生きることである。実践知とは、社会的に価値あるものに向かって、それぞれの現場で発揮する知性のことである>との言葉は、山極さんと趣意が響きあっている。
ちなみに、私は入社式でトーマス・ジェファソン(米国第3代大統領)による<何かを行うときは、常に世界中から見られているかのように行動せよ>という言葉を引用した。大事なのは結果以上にプロセスなのである。人を育てるにも、良い建築をつくるにも、それぞれ時間と手間をかけるのが良いのだ。

 

(註)山極さん田中さんの式辞はそれぞれの大学のwebsiteから引用した。なお、両氏の専攻は、山極さんが人類学、霊長類学。田中さんが江戸時代の文学・生活文化、アジア比較文化。

佐野吉彦

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