建築から学ぶこと

2017/05/24

No. 574

まとめあげる習慣、もしくは哲学

社会にはいろいろな集団があり、譲れないこだわりがそこに付随している。それでも社会の繁栄のためにはできることから連携したほうがよいに決まっている。そう感じるようになったきっかけのひとつはJIA(日本建築家協会)会員として委員長を務めた「建設産業基本問題委員会」での議論である(2003-6年ごろ)。それはJIAを取り巻く建設産業全体に目を向けて基本政策を探ろうとする場だった。それはJIAとしては開かれた発想で(その時期の村尾会長らの視点だ)、あるものはJIAの提言として整ったが、本来は建築団体が一緒に議論してまとめると効果が増すはずだった。
今後も、それぞれにある異なる事情や視点を、手間をかけて丹念に結び合わせれば、社会の基盤を堅固にするだけでなく、グローバルの場でもっと力強い提案ができるであろう。なお、そういう必要な建築界に留まらない。たとえばいま世界各国で、政治は過熱しても議論が整理されない状況があるのはもったいない。大事なことは、多様な考えを持つ集団の存在を認めながら上手に議論をまとめあげる習慣ではないか。グローバルな場面で起こる危機に立ち向かうには、まずはこうした手間のかかる作業が必要であろう。
思い出すのは、UIA2011東京大会(第24回世界建築会議)の開催にあたり、建築団体が一緒に実行組織を作って臨んだことだった。ここでの協調がのちに3団体で建築士法改正を成功に導く意識を培ったと思う。その大会で私は運営部会長という任務に就いていたが、ここでは国内をまとめる役目とともに、UIA(国際建築家連合)との合意形成もさらに重要な任務だった。その中でUIA本部はルールとして英仏西露の4ヶ国語が使えることを求めてきた。多言語が使える状況は、大会にひとりでも多くの参加を可能にするからだ。より重要なのは、言語空間の自由度が民主的なフレームの基礎要件だとの認識である。UIAは、開催国にこうした手間をかけさせながら、世界の同等性を保証しようとした。それはまさしく覚悟を伴う哲学である。

佐野吉彦

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