建築から学ぶこと

2017/09/06

No. 588

それは、単なる更新ではなく:サントリーホール

建築は、事業計画の推進のためにつくられる。できあがってみると、事業は建築とともに次の展開を生みはじめるものだ。それは時を経て、前向きに変化することもあれば、後ろ向きの変化もある。大きな決断と節度を伴った建築も、いつのまにか時代の間尺に合致しなくなるというわけである。ここで手を入れるか、手を放すか。社会とともに歴史を歩む建築は、必ずそうした現実や境界線と向きあってきた。
そのようななかで、サントリーホール(1986年開館)は、この8月末まで7ヵ月を使い、30年目の改修工事を無事に完結させた。これまで節目ごとにオーバーホールに取り組んできたホールにとっては最大規模の取り組みである。今回のメニューにある椅子の生地や舞台床板の張替え、あるいはバリアフリー改修といった項目はこれまでも手を付けた経験があるが、サブエントランス設置などのために少しばかりの増築を施したのは初めて。特筆すべき踏み出しができた。
経過の中で重要なポイントは、発注側にあるサントリーホールディングスや森ビル、アークヒルズといったプレイヤーが、このホールの価値を共有できたことではなかったか。そこにはそれぞれに当初の理念を継承する意欲があり、それを支える現実の力が伴っていたことも大きいだろう。一方で、サントリーホールの価値は、演奏者や聴衆とともに時間をかけて高め保ったものでもある。この節目で、関係するすべてが、このホールの響きと姿かたちを通しておこなわれる音楽活動に意義を感じ取り、改修が実現したのである。
ここまで建築にとっては幸せな30年の経過をたどった。当初からの設計者も施工者もそこにずっと寄り添い続けた。今回の企ては、ここから先も、ホールで育った音楽文化を育て続ける使命を皆が確認するためにも有効だったと考える。

佐野吉彦

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