建築から学ぶこと

2017/10/18

No. 594

広場の整備は未来をつくる

先ごろ、東京駅の丸の内駅前広場が整備された。この、丸の内駅舎(1914)を見渡す快い歩行専用スペースは、首都の玄関口にふさわしい広がりを持つ。事業者は異なるが、これまで進められてきた丸の内整備プロセスの、最後のピースと言える。人の流動の円滑化や、防災を含むさまざまな用途に効果を発揮するであろう。一等地に生まれた空地には見識のようなものが感じられる。このような都市のランドマークの正面ゾーンを整える試みは、小規模ながら道後温泉本館(松山市、1894ほか)が前面道路を歩行専用にした先例がある。建築の背後にうまく自動車交通を移し、温泉前に多くの観光客が集まるくつろいだ空気が生まれた。いずれの建築も重要文化財であるが、それぞれの美しさと価値を高めることにも成功している。
北海道庁旧本庁舎「赤レンガ庁舎」(1888)も重要文化財で、北海道草創の時代の空気を伝える名作である。こちらは、庁舎正面に向かう道路一区画分を廃止して歩行者専用の札幌市北3条広場「アカプラ」をオープンさせ(2014)、同様のにぎわいをもたらしている。平行して当該エリアにおける民間ビルの建替えが起こっているが、官民による定常的な機構「北3条広場委員会」の設置によって、行政の都市整備構想と趣旨が連動しながら進んでいる。札幌駅とすすきの地区を結ぶ地下街「チ・カ・ホ」や地下鉄や市電の延伸などの都市インフラが整備されるなか、人の流動や施設運営における共振が成果を結んできている。
これらは都市におけるプレイヤーがそれぞれの責任をうまく果たしたケースと言えるだろう。都市に受け継がれた良好な建築資産と人的ネットワークが重なりあうときに、さらに建築と土木の間に相互理解があるときに、広場が生まれ、そこから都市に好ましい変化が起きる。

佐野吉彦

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