建築から学ぶこと

2017/11/29

No. 600

『個』の魂、そして希望ある社会

今年の日本社会で大きく進んだのは働き方改革である。多くの企業のマインドに確実に変化が起こったことは評価できる。それでも、全体の残業時間を減らすことは変革の一里塚でしかなく、職種を問わず、企業は社員それぞれの成長のプログラムをより細かくデザインすることに向かわなければならない。もはや「個」は多様化している。多様な「個」を活かす企業、異なる世代とジェンダーを組み合わせて力とする企業こそ、より豊かな知恵と成果を生み出すことができる。このようなビジネススタイル改革は、じつは日本が世界の中で生き残るために必要な変革でもある。

それゆえに建築分野においては、働き方改革を契機として、建築設計/生産プロセスの改革を加速させたいものだ。もはや、あいまいな役割分担と、自発性を欠くプレイヤーを集めたプロセスではすぐれた建築は成立しない。今後のグローバルビジネスにおいて、日本らしい細やかさ、すりあわせの巧みさが看板にできるかどうかは分かれ目だが、明瞭な意思を持つ「個」が機能する建築設計/生産プロセスが、明瞭な「建築」を生む駆動力となることは確かだ。

現代日本は、災害への備えと克服、高齢社会など多くの課題に直面している。現実に生じた問題を解消するには、対応する法律や制度の整備が必要だが、単にそれだけでは「個」の可能性が広がらない。真にすぐれた専門家は、社会の改革のために自主的に働きかける人のことである。そのアクションが「個」を成長させ、そして社会の基盤を強め、希望をもたらす。

さて、ガスビル(1933、大阪)を紹介してスタートした連載は600回を数えた。今回開催される安井武雄展では、安井が設計したガスビル他の作品を紹介しながら、創業者の魂と技を探りあてようと試みている。

佐野吉彦

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