建築から学ぶこと

2018/02/21

No. 611

美酒をめぐる物語

南アルプス・甲斐駒ケ岳山麓の扇状地の白州に用地を確保して、サントリーがウイスキー蒸溜所を開設したのは1973年。豊富な軟水を原料として稼動を続けるなか、1983年を頂点として日本のウイスキー需要は頭を打つ。その後の白州は、醸造や貯蔵の増築よりも水製造の増強に重点を置く時期があったが、2008年からウイスキーの評価や販売が好転して、本来目指してきた機能の充実を図る流れがまた戻ってきている。美しい森に包まれた白州は、いつも静けさを保ち続けているようで、この40年あまりの歳月で、確実に市場の変化と共振している。
日本市場のアルコールの消費数量を国税庁の統計で見ると、1989年から2015年(平成元年から27年)の間は、854.0klからやや上向いたあと、847.6klに落ち着いている。変化があったのはその構成比率で、清酒が134.5klから55.6万kl、ビールが606.0klから266.6klへと、ともに大きく減少している(発泡酒は含まれない)。その背景には、発泡酒であるとかリキュールであるとか、バラエティーの広がりがある。もっとも、清酒もビールも種類も味わい方を多様化させながら踏ん張っている。今や酒の「量」をこなした時代から、酒を味わう「時間」を楽しむスタイルの時代に確実に変わってきた。
ちなみに、この変化は1954年生まれの私が飲み方遍歴を振り返るとうなずける。もう量では楽しまない。現在のアジア諸国ではまだ「量」の伸びに期待が集まるが、ここでも日本のような多様なスタイルに向かうはずである。余談ながら、私は昨年、中国でアルコール抜きの宴席を経験したくらいだから、世界はいろいろに変化する。アルコール製造と消費は国のパワーと併走しているようで、時代の風見鶏のような側面も持っているのだ。

佐野吉彦

源流・南アルプス

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