建築から学ぶこと

2018/03/14

No. 614

そこに潜む多様なメッセージ、3月11日

東日本大震災から7年が経ち、各地域の再生は進んできた。どの災害にも、発生時点の困難→復興の努力→教訓の伝承、と続く過程それぞれに重みがあるわけだが、この広域災害には、まだまだ掘り下げるべきことがありそうだ。記念の日に政府が主催した追悼式典では、特に被害の大きかった3県の被災者代表が語る言葉に真実の思いがこめられるとともに、明日への希望が感じられた。ひとりは今年初めて、被災した海辺の町で初日の出を見ることができたと述べ、ひとりは地域で災害の語り部の活動を始めているという。前向きな眼差しが生まれているのはすばらしい。いくぶんフォーマルであっても、このような式典があることにより、被災者のなかに潜む多様なメッセージを引き出すことができる。意義深い機会であった。
第610回で触れたように、自然災害は同じようには起こらない。風水害への備えがあっても、熊本では地震の経験は少なかった。遡れば大水害と戦災を経ていた神戸も、阪神淡路大震災には脆弱だった。東日本大震災の三陸には、かつて幾度も襲った津波の記憶は引き継がれていても、時代が変わることで様相が異なる事態と向きあうことになる。従って平時においては、災害対策は地域の未来に備えるためにあるものの、眼前の災害に対して瞬時にどのような姿勢を取れるかはかなり重要である。発生時点で賢明な選択・判断ができたかどうかは、発生から7年経っても、結局は復興の鍵を握っている。となると、苦境を乗り越えるのは民の力だけでなく、政治が先取りすべき課題とも言えるだろう。ところで追悼式典での安倍総理は、防災における国際貢献を進めたい、という言及をしていた。じつは災害の賢明なマネジメント経験は、世界を平穏に導くことのできる面で、重要な外交的意味をも持つ。日本は提供すべき知恵と情報を十分に有しているのである。

佐野吉彦

「谷川俊太郎展」(東京オペラシティアートギャラリー、3月14日まで):言葉は見つめるためにあり、乗り越えるためにある

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