建築から学ぶこと

2018/04/18

No. 619

リスクマネジメントと危機管理

どの時代も、組織の運営においては、トラブルを未然に防ぐための[リスクマネジメント]が重要である。設計する組織(建築士事務所)の経営においても、経営者(法人の代表者、建築士法で言えば開設者と管理建築士)とスタッフは、業務がリスクと隣りあっていることを明確に認識すべきである。いや、設計作業はリスクマネジメントと同義かもしれない。それゆえに、設計監理契約や服務規程・運営マニュアルなどによって関係者の間で認識を共有しておかねばならない。手間をかけた準備は設計する組織を守るだけでなく、建築主や社会に対する責任を果たすことになるのだ。
一方で、事故やトラブルの発生後の[危機管理]は、何よりも組織としてすみやかに解決を図ることが目標となる。これも危機に立ち向かう姿勢を日頃から持ち、危機管理マニュアルによってその対応手順を定めておくのだが、起こる事態は多様である。どうであろうと、組織内外の情報を迅速かつ的確に把握し判断すべき局面であるので、日常的に情報共有が円滑な組織風土でなければ動きが取れないものである。組織内外に信頼関係があるかどうかは危機において試されるので、リスクマネジメントも危機管理も、組織のリーダーシップの真価が問われる場と言えるだろう。
以上のような、流動性の高い場でのリーダーシップは、組織の中の<マネジメントスキルを学んだ人材>か<修羅場を経験した人材>か<洞察力が備わった人材>のいずれかによって担われる。それぞれはタイプにおおいに開きがあり、往々にして行き違いが生じやすいものである。異なるタイプ同士がお互いの能力を精確に認め、リーダーとフォロワーの役割を明瞭にしながら協力しあうことで、危機は収束するということは頭に入れておくべきである。
なお、[危機管理]が終了したら、トラブルを次の業務で再発させないよう、運営マニュアルなどのリスクマネジメントへのフィードバックを行う。両者はそうした関係である。

 

※参考文献 佐野吉彦が主査を務めた「開設者・管理建築士のための建築士事務所の管理研修会テキスト“これからの建築士事務所の経営と展望”」(一般社団法人日本建築士事務所協会連合会・編)

佐野吉彦

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