建築から学ぶこと

2018/06/06

No. 625

世界遺産のなかにある使命

この春、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がユネスコの世界遺産(文化遺産)に加わることが確実になった。現時点ではICOMOS(国際記念物遺跡会議)が登録を勧告する、というところまできた。2007年に取り組みが始まり、2015年に「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」として申請したものの功を奏せず、申請内容を再構築した。現在、世界遺産に登録されるには、定められた<基準>(クライテリア)を満たすこと、顕著な普遍的価値を証明できる<真正性>(オーセンシティ)があること、<完全性>(インテグリティ)があること、の3点が重要と言われる(*)。再構築のプロセスの中で、構成資産の多くは共通していても、重心はずいぶん動いた。教会とともにある地域景観、から禁教下でいかに信仰を継続してきたか、というストーリーに変わっている。これはなかなか深い問題意識を含んでいると思う。

ところで、意義ある文化資産をどのように評価して、消失の危機から防ぐかについて、20世紀前半から長い議論が続いてきた。世界遺産条約が正式に発効したのは1975年で、日本は1992年に批准した。<文化的景観>が遺産のメニューに加わったこの年あたりからで、複数の構成資産を位置づける<シリアル・ノミネーション>が大きな動きとなっている。建築や風景を現実のなかで活かしつつ、その意義を正しく認知させるために、複数の構成要素を結びつけるストーリーが組み立てられる。「長崎・天草・・」もその視点に立つが、2016年の世界遺産委員会において、国をまたぐ17の建築作品を構成資産として登録された「ル・コルビジェの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」は、その先行する取り組みである。これはル・コルビジェの普遍的な影響力をうまく説明したストーリーにまとまっている。そして、そこでの努力はすでに現実におけるさらなるアクションにつながっている。登録は終着駅ではないのだ。

 

本稿は「世界遺産 ル・コルビジェ作品群」(山名善之・著、TOTO出版2018)を参考とした(特に*)。

佐野吉彦

「ル・コルビジェ」に尽力した山名善之・東京理科大学教授は、フランス国芸術文化勲章シュバリエに叙された(右はフランス大使)。

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