建築から学ぶこと

2018/07/04

No. 629

ユニオン・スクエアから

1988年のある時期、ユニオン・スクエアに面したビルの設計事務所でインターンをしていた。今はピカピカの街になっているが、そのころのニューヨークは治安が良くない時代の最後で、このあたりもどこか薄汚れて傷みが目に付いた。11階のピーター・グラック(1939生)の事務所は、別の建築家とフロアを半分シェアしていた。その建築家以前は、そこにジェームズ・ポルシェック(1930生)のオフィスがあった。正確に言えば、ポルシェックがピーター・グラックを誘ってオフィスをシェアすることになったはずである。
当時、ポルシェックはパーク・アヴェニューに500 Park Towerという見事な作品(1980)を完成させ、注目された。それはSOMによるペプシ・コーラビル(担当ゴードン・バンシャフト)の増築で、ミッドタウンのコンテクストを丁寧に読み解いた見事な出来栄えであった。それに続くワシントン・コート(1984)やカーネギー・ホール改修(1986)を経て、国立自然史博物館ローズセンター(2000)に至る取り組みは、都市への洞察力に基づいた知的なアプローチとして高い評価を得る。そして、2018年にはAIA(アメリカ建築家協会)ゴールド・メダルを受章した。ポルシェックの事務所はいまEnneadという名でスタイルをうまく受け継いで活動が続いている。
ピーター・グラックについて言えば、1988年ごろの問題意識は、ポルシェックとゾーンを共有するものだった。デザインのテイストは今も共通するところがあるが、事務所名をグラック・プラス(GlUCK+)と改めて方向性を絞り、建築家主導のデザイン・ビルト(ALDB)の実績を蓄積し、いかに質の高い仕事を実現するかの問題提起を世に問い続けている。先ごろ、トーマス・グラック(ピーターの長男)による講演(The new school にて。AIA大会のプログラムの一部)を聴いた後、近く(Center for Architecture)でポルシェックの展覧会を見た。どちらの会場も、彼らに縁のあるユニオン・スクエアからそう遠くはない。なんだか懐かしい気分である。

佐野吉彦

ポルシェック展、ローズ・センターの写真で。

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