ダイバーシティ(Diversity)といわれる業容や組織でありたいと考えている。ダイバーシティは、「さまざまな違いを尊重して受け入れ、その違いを積極的に活かすことにより、変化し続けるビジネス環境や多様化する顧客ニーズに最も効果的に対応し、企業の優位性を創り上げること」とされている。当社のダイバーシティは、2つの大きな柱で構成されている。ひとつは、当社の業務を多様化すること。もうひとつは、そのために異能の人材が働きやすい環境をつくること、である。これによって、Architects & Engineers 組織としての厚みをもたせ、新たなYASUI STYLE を確立して社会貢献と企業存続を実践することができる。エネルギー事業の展開や、プロジェクトに対する多様なソリューション業務、発注者の業務支援をおこなうマネジメント業務、B IM ビジネスの取り組みなどは、上記のダイバーシティの流れにそっておこなわれており、そのための人材確保や労働環境整備がおこなわれている。多様な能力の活用は、当社の基本コンセプトのひとつであるIPD(Integrated Project Delivery)という概念の実践手法のひとつである。
多様性のある業務は、いろいろな方向へと知的ベクトルを働かせる。結果として、設計・監理という既存のビジネスとの間に融合と摩擦を生じさせる。いま、当社では心地よい前向きな融合と摩擦が生じている。100周年に向けての必要なステップである。「たとえば軍艦と言うものは一度遠洋航海に出て帰ってくると、船底にかきがらがいっぱいくっついて船あしがうんとおちる。人間も同じで、経験は必要じゃが、経験によって増える知恵と同じ分量だけのかきがらが頭につく。知恵だけ採ってかきがらを捨てるということは人間にとって大切なこと…」(『坂の上の雲 』文藝春秋・司馬遼太郎)秋山真之が正岡子規に伝えた言葉である。秋山は固定観念というかきがらを取り去れという。9 0 周年を迎えて、当社も固定観念というかきがらを取り去って、いままさに船足を速めている。拡張とは、固定観念からの脱却を意味する。社会はダイナミックに変化している。建築業界が慣れ親しんできた生産プロセスについても、今までにない新たな手法が試みられている。発注者とメーカーや多様な職能がB I M を介して直接コミュニケーションをとる、というような建築生産プロセスの可能性も高まっている。これに3 D プリンタが拍車をかける。製造業では、当たり前のことがようやく建築業界でも議論されるようになってきた。
建築分野を超えていくという意識が必要である。われわれが注目すべきは、エネルギー・環境・廃棄物など大きな社会問題に対するソリューションである。農業を含めた食糧・医療・人口問題などにも注意を払わなければならない。社会に目を向ければ、これまで直接業務として扱わなかった課題がビジネスとして身近にみえてくる。かきがらを取り去り、拡張していく領域は深く広い。真に発注者のビジネスに貢献するためには、設計・監理だけでなく多くの分野の専門能力が必要である。プロジェクトは、ますます複雑かつ高度になっている。発注者のプロジェクト推進能力も向上している。われわれがこれまで培ったノウハウを核として、新たな方向を模索するのは必然であろう。多くの領域で、発注者にサービスができるかどうかが重要なポイントになる。デザインと構造・設備・コスト・監理という従来の総合設計事務所から、真の意味での総合設計事務所を目指すという方向への動きが本格化している。マネジメントセクションは、その実行部門としての役割を果たす組織である。
水川 尚彦(常務執行役員マネジメントビジネス部門総括)
Copyright (c) Yasui Architects & Engineers, Inc.