ソリューション

Solution

安井建築設計事務所のBIM

「建築画報」2014.11-359特集号より

はじめに

BIM(Building Information Modeling)は、現在、建築や土木、そしてまちづくりの分野などで活用が拡大してきている。2009年がBIM元年といわれているが、安井建築設計事務所はそれより先の2007年から本格的にBIM設計に取り組んできた。数多くのBIMの実績と蓄積から生みだされたBIMのノウハウの一部は、BIMテンプレートとして整理し、一般公開することで、社会におけるBIMの確立や発展にも貢献をしてきている。
このように、多くの経験と実績をともなった安井建築設計事務所のBIMは、多様化する環境への課題や、刻々と変化する設計条件にも柔軟に対応し、発注者や建築主のニーズに的確に切り込む『クライアント志向型のBIM』でもある。そして、BIMの活用はプロジェクト関係者との合意形成やアイディアの統合、高い品質の実現など、常にIPD(Integrated Project Delivery)の視点でプロジェクトを進めることにもつながっている。
『IPD/BIM』― 常に広い視野でBIM を活用・展開する安井建築設計事務所のBIM― の姿を紹介する。

安井建築設計事務所のIPDの視点
安井建築設計事務所のIPDの視点

BIMへの取り組み

意匠設計用BIMテンプレート意匠設計用BIMテンプレート
意匠設計用BIMテンプレート
販売を終了しております(2018年5月)

BIM への取り組みは、いくつかのきっかけが重なってスタートを切った。ひとつめは設計生産性の低迷や長時間労働への対応、ふたつめは先送りする非効率的プロセスの是正、そしてみっつめがトップダウンによる全社的な取り組みである。

このように当社のBIM は、生産性の改善やプロセスの効率化など、設計プロセス全体の改善のためのツールとして取り入れることから出発した。これに『レギュレーション(手順・ルール化)』、『スタンダード(標準化)』、『スキル(教育・研修)』の3本の柱を据えて、戦略的にプロジェクトを進めることで大きな成長、成果をあげることができたと考える。その結果、フロントローディングによる設計プロセスの効率化や品質向上、あるいは事業計画全体へのBIMの活用、とりわけ維持管理プロセスへの展開は、多くのクライアントから注目されるに至っている。いいかえれば、安井建築設計事務所のBIM は、常に『クライアントの視点に立ったBIM』=『クライアント志向型のBIM』でもある。

BIMを進めるための3要素
安井建築設計事務所のIPDの視点
東京国立博物館東洋館改修設計におけるBIMによる可視化
意匠設計用BIMテンプレート
東京国立博物館東洋館改修設計における
BIMによる可視化

安井建築設計事務所におけるBIMプロセス

安井建築設計事務所におけるBIMプロセス
安井建築設計事務所におけるBIMプロセス2

BIMの効果

  1. プロジェクト運営におけるメリット
    クライアントメリット
    BIMの特徴である『可視化』は、クライアントニーズである『価値とコストの妥当性』、『事業計画におけるプロセスの透明化』へ大きな変化をもたらしている。つまり、事業計画の全容を早い段階に把握することを可能にすると同時に、高いBIM品質プロセスのうえに、より有益な事業や建築、そして数多くのクライアントメリットを引き出すことができる。
  2. 設計プロセスにおける効果
    効率的・効果的な設計プロセス
    BIMプロジェクトは、そのプロセスのなかで、3Dモデルによるさまざまな条件下での景観・環境・エネルギーシミュレーション、ライフサイクルコストや維持管理費の算出などをおこなっている。とりわけ、数十種類のサンプルから定性的・定量的な観点で論理的に導き出されるアウトプットは、明確な合意形成とともに、先送りしない効率的なプロセスをつくり出している。

    安井建築設計事務所におけるBIMプロセス2
    設計初期段階の景観・環境シミュレーション
    シームレスなデータ連携
    設計におけるBIM 活用のメリットは、設計フェーズにおいてシームレスにデータを連携し、クライアントと設計者がBIMモデルを共有しながら合意形成を図ることができるところにある。
    すなわち、1ファイルですべてのデータを蓄積・管理できるBIMは、俯瞰的視点であらゆる角度、切り口からの検討を可能にすると同時に、クライアントから確実に重要なディシジョンを引き出すことを可能にする。
  3. 統合設計とフルBIM
    統合設計による高品質設計
    建築、構造、設備のBIMモデルを統合しながら進めることで、設計を高い品質でまとめあげることができる。
    『統合設計』は干渉チェックやさまざまな属性情報の共有に加え、コスト縮減やV E といった費用対効果(価値)をも明確化するこができる。また『統合設計』は、全分野の情報を集約したデータベースをつくりあげることにもなるため、各分野での3D設計『フルBIM』がその前提になる。
    安井建築設計事務所におけるBIMプロセス2
    フルBIMモデル
  4. BIMは設計プロセスを変える
    コンカレント型プロセスへ
    統合設計(フルBIM)は、品質、性能、コストを含む総合的視点で目的に応じた方向にプロジェクトを導くことが可能になる。
    加えて、シミュレーション、干渉チェック、数量算出機能、そして統合されたデータベースを活用した『コンカレント型(同時思考型)』の視点で集約してプロジェクトをまとめる(プロセスのフロントローディング化)ことも可能にする。
    ただしこれらの実践には、BIMスキル・論理、データ集積力もさることながら、高いレベルの設計力や設計プロセスマネジメント力も求められる。
    設計力・マネジメント力とBIM
    高いレベルでBIM設計を実践するためには、BIM-LOD(Level of Development)の存在と理解が必要になる。データ構成や手順を明確化することで、短時間で効果的にBIMデータを構築し、プロジェクトフェーズに沿って効率的にデータをブラッシュアップすることが可能になる。当社は独自のBIM-LODを設定し、BIMの持っているポテンシャルを100%引き出しながらプロジェクト運営を行っている。
安井建築設計事務所におけるBIMプロセス2
安井建築設計事務所のBIM-LOD

設計から施工へのBIMデータ連携 ―フルBIM設計の事例―

加賀電子本社ビル

加賀電子株式会社本社ビルはすべてのプロセスにおいてBIMを用いた画期的プロジェクトである。

BIMを進めるための3要素
加賀電子本社ビル
BIMプロセス
基本設計、実施設計、施工の各フェーズにおいてBIM データを引き継ぎ、全建設プロセスを通じてBIM を活用した。BIMを用いた3Dによる説明・解説は、クライアント側プロジェクトチーム、社員との合意形成・情報共有・方針決定に大きな役割を果たした。
BIM導入のメリット
BIMの統合力やフロントローディングは、施工・監理段階における人的負担を格段に改善した。特に構造図は、鉄骨製作図、コンクリート躯体図、鉄筋加工図などの躯体に係る複数の図面生成と同時に、配筋検査図などの検査用資料とも連携するため、2Dで発生していた人的ミスを未然に防ぐ有用性も発見できた。
BIMとファシリティ・マネジメント
BIM維持管理システムとの連携により、エネルギー管理や清掃・点検・修繕管理などに活用するものである。入居から1 年間の試行によりその効果を確認すると同時に、分析・評価を加え、BIMの維持管理分野での活用を確立する予定である。
BIMを進めるための3要素
構造BIMを確認申請や鉄骨制作図に活用(データ提供:竹中工務店)

前橋地方合同庁舎

国土交通省関東地方整備局発注の前橋地方合同庁舎ではBIMの試行プロジェクトとして、設計および施工において活用手法の検討・検証がおこなわれている。

BIMを進めるための3要素
前橋地方合同庁舎
統合設計(フルBIM)
統合設計(フルBIM)
前橋地方合同庁舎 ―設計フェーズにおけるBIM活用―
意匠、構造、電気設備、機械設備の分野でB IM を活用すると同時に、コスト計画においてもBIMを活用した(フルB IM による設計)。特に基本設計時に1 ファイルで平面計画とセキュリティ、遮音、防災、OA などの計画を連携管理することでプロセス面での飛躍的有用性が確認できた。また、集計機能を用いて、各官署のレイアウトと要求・査定面積を一気に整理し、スムーズなボリューム設定と平面プランを数週間で確定するに至った。設計プロセスに応じて必要かつ適切なデータ入力とその生成によって、BIM-LODを確立したことも大きな成果であった。
統合設計(フルBIM)
設計初期の段階からすべての分野で3D 設計をおこなうことで、ミニマムな階高設定など、コストを抑えた設計を実践した。また、さまざまな環境・景観シミュレーションを取り入れることで、デザインと機能のバランスが取れた検討・議論を重ね、効率的な設計プロセスを運営することができた。
前橋地方合同庁舎 ―施工フェーズ―
請負者がIFCによる3データの統合、干渉チェックをしながら、総合図ならびに各分野の施工図へ展開している。これらのデータは引続き、維持管理へと活用される予定である。

クライアントのためのBIM

    1. クライアントにとって役立つBIM
      BIMは、設計者・施工者にとって一定の効率と効果があることがわかってきているが、建築生産側だけに有用でもあっても、社会からは高い評価を受けることは難しい。
      BIM の目的は、クライアントとって役立つものでなければならない。特に経営判断のひとつとしてその有用性を発揮しなければならない。事業計画におけるクライアントのニーズは右図に整理される。BIMはこれらのニーズを解決することが可能であり、クライアントの経営や事業効率化にも充分貢献できるものであると捉えている。
    2. 事業計画への活用
      BIMプロジェクトは、そのプロセスのなかで、3Dモデルによるさまざまな条件下での景観・環境・エネルギーシミュレーション、ライフサイクルコストや維持管理費の算出などをおこなっている。とりわけ、数十種類のサンプルから定性的・定量的な観点で論理的に導き出されるアウトプットは、明確な合意形成とともに、先送りしない効率的なプロセスをつくり出している。
    3. 総合的視点での『解』
      事業計画やそのプロセスにおいて、とりわけ重要なのが基本構想・基本計画の段階である。この段階に『プロジェクトの価値とコスト』をいかにスピーディかつ論理的に組み立てられるかが重視され、またクライアントのニーズでもある。BIM プロジェクト初期段階において、環境やコスト、維持管理、品質など、さまざまかつ総合的視点から明快な『解』を導き出すことができる。これによって、クライアントはもっとも合理的な事業計画を推進することが可能になる。
事業プロセスとクライアントニーズ
事業プロセスとクライアントニーズ
    1. BIMによる『Value & Cost』の可視化』
      BIMのメリットの多くが『可視化』にある。BIMによるデザイン、プロセス、コスト、技術、数量の可視化は、より高いレベルの建築の姿へ昇華させる。とりわけBIM の機能面での最大の特徴である『数量集計機能』を活用した、デザイン・仕様・機能・コストにおける『Value & Cost(価値とコスト)』の正確かつスピーディな可視化は、クライアントに重要なメリットをもたらしはじめている。
BIMによるCOST&VALUEの可視化
BIMによるCOST&ampVALUEの可視化
    1. データベースとしてのBIMの活用
      BIMの『可視化』は、そのデータベースの上に成り立っている。基本・実施設計の各フェーズにおけるデータに、建築、構造、設備の生成データや属性データなどを付与することで、コスト計画や維持管理計画、そして事業計画など、さまざまな分野への活用・展開が可能になる。
BIMデータベース
BIMデータベース
  1. 維持管理への活用
    維持管理費が建物のLCC(ライフサイクルコスト)の約80%を占めることから、クライアントにとってFM(ファシリティ・マネジメント)は事業計画・経営計画のなかでも適切な判断を求められる重要なファクターとなっている。
    効果的なFM をおこなうためには、基本設計時点から取り組まなくてならない。つまり建物に掛ける費用・価値と維持管理費に掛ける費用・価値を天秤に掛けながら、バランスよく計画を進めることが求められる。まさしく事業計画におけるBIMの活用がここにある。ここでの正しい方向づけ、判断がLCCを大幅に削減し、費用がかからない建物として評価されることになる。
    安井建築設計事務所は、これらの思想に基づく独自のBIM-FMツールを開発し、社会に提供しつつある。

BIMとマネジメント業務

事業を俯瞰すると、PM(プロジェクト・マネジメント)、CM(コンストラクション・マネジメント)、FM(ファシリティ・マネジメント)、そしてPMr(プロパティ・マネジメント)など、フェーズごとにさまざまな参入機会をうかがうことができる。事業計画そのものをBIMでおこない、そして各フェーズをつなぎ合わせ、統合することで、BIMのもっている形態や数量の可視化、フロントローディングなどで、スピーディかつ正確な事業計画を推し進めることが大いに可能である。

BIMを用いたファシリティマネジメント
BIMを用いたファシリティマネジメント

おわりに

  1. これからのBIM―建築生産プロセスの変革―
    BIMが有する『可視化による正確なディジョンへの誘導』、『シームレスなデータ連携』、『集計機能の活用』は、より効率的かつ効果的なプロセスへの再構築、設計・建築生産プロセスをも大きく変革するものと考える。設計および施工一体のBIM 化、性能発注などの発注形態における合理化と同時に、LOD やガイドラインの統一によって設計者、施工者の共有データが増えることによる更なる効率化やスムーズな連携などが期待される。一方で、クライアント側からみた建築生産プロセスの変革も期待される。前述の通り、BIM は事業計画・経営計画にも影響をおよぼす存在になっ
    てきている。とりわけ、『Value & Cost(価値とコスト)の妥当性』、『事業計画におけるプロセスの透明化』、『維持管理への活用』はBIM のみが的確に誘導できるものである。
    クライントニーズを満足させるBIM は、経営の一端を担う存在になってきていると同時に、建築生産プロセス、事業プロセスを変革する原動力になっていく。
  2. 世界を引っ張るわが国のBIM
    日本のBIMは2009年からの5 年間ですばやい展開をみせている。ビジュアライゼーションとプロセスの両面でのさまざまな活用は、事業プロセスや建築プロセスにおいても大きな興味と期待をもって受け入れられはじめている。データ連携やガイドライン・LOD の未統一という課題を抱えながらも、高い建築力、設計力に支えられた頭脳は、BIMをも我が手中にしつつあると感じている。数年後にはこれらの問題も解決され、世界で最も進んだBIM 王国になるであろう。創造力、技術力が求められてきた建築に、マネジメント力、経営・事業力を付加するわが国のBIMは、経営者層そして社会を巻き込み、世界を引っ張る存在になると考える。
最新図面の管理、機械仕様のリスト化
最新図面の管理、機械仕様のリスト化
建築情報マネジメン
建築情報マネジメント
市民社会の基礎をつくるB I M ~ 建築生産プロセスの変革ト
市民社会の基礎をつくるBIM
~建築生産プロセスの変革

村松弘治(常務執行役員東京事務所長IPD 本部担当、BIM・ 技術開発センター長)

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