13号 東京国際空港(羽田空港)新管制塔

超高層管制塔の設計技術の集大成となった、空港のランドマーク

東京国際空港(羽田空港)新管制塔
日本一高い115.7メートルの新管制塔

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中央に柱のない無柱空間の管制室

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特殊な免震、制震装置

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新管制塔の上部

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約130平方メートルの広さの管制室

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航空機の発着数日本一。空の玄関口、東京国際空港に建てられた

日本一高い115.7メートルの新管制塔

航空機の年間空港発着数37万8914回(2011年度)という数字が示すように、日本を代表する空の玄関口として機能している東京国際空港、通称羽田空港。4本目の滑走路の使用が始まり、国際線の運航に伴う24時間空港化など空港の整備・拡張が進む中、2009年に竣工した東京国際空港新管制塔(以下、新管制塔)は日本一、そして世界でも3番目となる115・7メートルの高さを持つ、羽田空港の新たなランドマークだ。新管制塔の意匠設計を担当した平岡公章は、

「旧管制塔からでは目視できない新しいD滑走路を含め、これまでの三本の滑走路、東西のターミナル地区、貨物地区、国際線地区、新旧の整備場地区。そのすべてが見える管制塔にすることを最優先に、設計については検討を重ねました。埋立地で地盤が脆弱な上、すぐ傍の地下にモノレールが走っているという厳しい条件下で、今までにないコンパクトな基礎構造を確立できたことも、新管制塔を実現できた要因のひとつです」と話す。
これまでもっとも高かった中部国際空港管制塔(86.75メートル)から約30メートルと、その高さを大幅に伸ばした新管制塔は、現在、国内にある60メートルを超える6つの超高層管制塔のうち5つ(右図)の設計を手がけてきた安井建築設計事務所が、その技術の蓄積をもとにつくり上げた、集大成といえる建築だ。

目視管制を行う管制官の、視認性への強い要望に応えて、

超高層管制塔初の、中央に柱のない無柱空間の管制室を実現

国土の約三分の二が山地の日本では、大規模な空港の大半が海際や海上の埋立地につくられている。〝羽田マヨネーズ〟と呼ばれるほど脆弱な地盤に搭状の建物をつくるため、今回は基礎構造から免震、制震まで、さまざまな技術を応用したと話すのは、構造設計を担当した安田拓矢だ。
「地下50メートルまで地盤の緩い状態が続く土地に、100メートルを超える塔を安定して建てるため、基礎には25×30×厚さ6メートルのコンクリートの塊を打ち、先端につばのある長さ50メートルの特殊な杭を104本配置して塔を支えています。これまで超高層管制塔はいずれも鉄骨造でしたが、より風に揺れにくく、地震に耐えられるように、今回は超高層管制塔では初のRC造にして、特殊な免震、制震装置を採用しました」

そもそも空港が建つ海際は風が強い上、上空の風は地上よりも強くなる。幅と高さの比が1:10の搭体は、ビルなどと比べて細長いため揺れやすく、強風が吹くと、管制官は船酔いのようになる場合もあるという。
「管制室では、陸上と空を見ながら航空機を適切な場所に誘導するという非常にナーバスな仕事が行われています。たとえば観光タワーの場合、人が滞在するのはせいぜい1時間ほどですが、管制官の方々は立ったり座ったり、目線を動かしながら、かなり長時間管制室にいるので、彼らが酔わないように、風揺れを抑えて居住性をよくする方法も検討しました」(平岡)

また、100メートルを超える管制塔の高さについても、
「敷地内には既存の建物が多く、目視できる範囲を広げようとすると、塔はおのずと高くなっていきますが、あまり高くなると雲の発生率も上がってしまいます。塔の建つ場所から見たとき、地上を移動する航空機がどの建物の陰になってしまうか。もっとも見やすい位置に管制室を置くため、想定した高さから見た建物の陰を、平面図に落とす作業を繰り返しました。これだけ建物があると、すべてを完璧に目視することはできませんが、どこで、何秒くらい陰になるなら、そこはカメラで見ればよいか。110メートルという高さは、管制官の方が妥協できること/できないことを確認しながら問題を一つひとつ潰した結果、決まりました」と平岡は説明する。

空港の管制塔の多くは片側の滑走路への視界が取れればよいものの、滑走路を4本持つ羽田空港は、視界を360度確保しなければならない。そんな厳しい条件に対しても、新管制塔の管制室は外周のガラスサッシと柱を同化し、中央の柱をなくした鳥かご状の無柱空間で応えている。
「管制官の方々には、VFRという目視管制の規則による強い責任感があって、視認性については決して妥協しません。そこで地震の際の管制室の揺れを低減するため、免震装置を管制室のすぐ下に入れるという特殊な使い方をして、揺れを半分以下に抑えることで、無柱空間を実現しました。また、風揺れに対しては制振装置を入れたほか、さらに塔の側面に突起をつけて揺れを抑えたことによって、管制室の居住性を高めています」(安田)

地震や津波が来ても、その機能を止めることはできない管制塔

世界基準で設計される管制室に求められるスペックの高さ

高さだけでなく、約130平方メートルという管制室の広さにおいても日本一となった新管制塔。無柱空間の管制室のもうひとつの大きな特徴が、管制フロアを一段高くし、その周囲に通路を設けたことだ。
「この段差は、実は管制官の方から出たアイデアでした。80センチの段差をつけてその周囲を通路にした結果、視認性の向上に加え、管制機器をメンテナンスしやすくなるというメリットが生まれました」(平岡)
24時間機能している羽田空港では、管制室にも常時人がいる。管制フロアを一段高くして通路を設けたことで、管制技術官は管制業務に支障をきたさないよう通路側からメンテナンスを行うことが可能になった。

「本来なら、通路の内側のスペースで収まるのに、面積が増える上に段差をつくることは、構造面から考えるとかなり大変なことでしたが、これはぜひやってほしいということで、設計に反映しました。管制官の方の管制室への要求は、視認性という一点に凝縮されている分、我々も明確な答えを出さなければなりません。100メートルの高さに免震装置を入れることも、普通はやらないことですが、こうした方法を検討して、実際に取り入れるなど、今振り返っても非常に濃い設計期間でした」(安田)

中部国際空港、熊本空港の管制塔の設計にも関わってきた平岡は、
「管制塔の目的は非常に特化されていて、建築への要求も明確です。航空機を見るため、風や地震に耐えるため、ガラスの耐風圧性能や建物そのものの強度も、通常の1.5倍は必要とされるなど、高いスペックが求められる上、管制塔には世界基準のルールがあります。もちろん日本の関係法規もあり、遵守事項が多いという点でも難しい設計だと思います」と話す。
たとえ地震や津波が来ても、航空機を着陸、あるいはほかの場所に向かわせるために、管制塔は機能し続けなければならない。塔の上端部にある管制室で業務を遂行する管制官は、そんな緊張感の中で空の安全を守っている。高さと広さにおいて、これまでのスケールを大きく上回る新管制塔の設計は、これまで蓄積した技術とノウハウをベースに、構造と意匠の設計ビジョンが融合してできた建築といえるだろう。

写真:*エスエス東京、**澤田聖司

本編は2013年12月発行「対話力は設計力」-13号 [発行:安井建築設計事務所、制作・編集:株式会社Eat creative]から転載されたものです

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