14号 パナソニック株式会社 エコソリューションズ社京都ビル

"ビルまるごとショウルーム” 化で実現した、省エネ建築

パナソニック株式会社 エコソリューションズ社京都ビル

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意匠において、設備において、省エネルギーを”視える化”した

市松模様のルーバー、そして地域の緑化に貢献する立体坪庭

2018年に創業100周年を迎える、世界的な総合エレクトロニクスメーカー、パナソニックグループ。環境革新というビジョンのもと、環境負荷を軽減しつつも快適に暮らせる空間づくりを目指す。そんな同グループのショウルームも併設している「パナソニック株式会社エコソリューションズ社京都ビル」(以下、パナソニック京都ビル)は、意匠において、設備において、省エネルギーを”視える化”し、環境への配慮をさまざまな具体策とともに実践しているユニークなオフィスビルだ。

京都駅から南へ約2キロ。白を基調とした建築のファサードに用いた市松模様のルーバー、そのルーバーに立体的に組み込んだ樹木がすっきりとした印象を与える同ビルは、中小規模の工場や倉庫が多い周辺地域の緑化にも貢献している。省エネの”視える化”、そして京都らしさを通じて、パナソニックのアイデンティティを表現してほしいというクライアントの要望を聞いて、意匠設計を担当した戸川勝之と渡部 剛は、
「オフィスで働く人の心に潤いを与えるのはやはり緑だろうと思い、執務空間の傍らに坪庭をつくり、木を植えたらどうかと考えました。また、京都の町家に見られる縦格子をファサードのルーバーに使い、さらにその縦格子を市松模様にすれば、京都らしさが出るのではないかとパナソニックさんに提案すると、”ぜひ、やりましょう”といってもらえました」と話す。

省エネへの取り組みで大切なのは、ユーザーの意識改革と考え、

建物利用者を主とした運営委員会”エコマネ”を設置

こうして建築としての表情が決まっていく中、竣工後、本格的な省エネを実践するため、設備担当の丸尾竜一と石﨑紫乃はクライアントとの会議にも参加しながら、設計段階で決めるべきことを議論し、提案した。
「まず検討したのがルーバーの間隔です。直射日光を遮るルーバーは空調負荷を低減するいっぽう、室内を暗くしてしまいます。その幅を変えることで、窓から入る自然光がどう変化するか。意匠優先で感覚的に決めるのではなく、建物のエネルギー消費量を合理的に削減するために、我々が推進しているBIM(Building Information Modeling)を利用して、自然採光のシミュレーションなどを行いました」

省エネの具体策として、オフィスの窓際には屋外から入る自然光の明るさに応じて自動調光するセンサーと照明器具を使い、ルーバーのない壁面の窓にはオフィスの奥まで光を導くためにライトシェルフ(庇)を欄間に設置。このライトシェルフも、どの高さにつければ反射した光がどこまで部屋に入るか、シミュレーションを重ねながら、最適な位置を探った。また、屋上に設置した太陽光発電システムで得た電力の一部を、ショウルームの一角に設けたリビング空間に利用。夜間、坪庭をライトアップするLED照明については、その日の発電量に応じて色が変わるという工夫もされている。

ちょうど設計していた時期に、パナソニックが電力を細かく測定できる計測機器を開発したこともあり、計測したデータを有効活用するための分析方法を考えることは、今回の使命だと思っていたと丸尾はいう。
「大型ビルなどで細かくデータを取っているケースは意外とあるのですが、データ計測だけに終わっていて、ほとんどの場合、数字を公表していません。そこで今回はBEMS(Building Energy Management System)を活用する設備設計者として、エネルギーの削減方法を具体的に考えました」

省エネに本気で取り組むには、機器やシステムを導入するだけでなく、ビルを使う人々の意識改革が大切なのではないか。こうした考えのもと、建築主、建物利用者および管理者、設計者、施工者で構成する「省エネ運用・チューニング委員会」(通称エコマネ)を設立。どのような数値を計測・分析して見せれば、省エネ意識が高まるか。設計段階から検討していた丸尾と石﨑は竣工後、事業所・時間ごと/前年度同月と比較した電力消費量などの数値をひと目でわかるグラフ化した資料にまとめ、エコマネの運営委員に配布。定例会議では、具体的な省エネ対策が打ち出された。
「2階より上のオフィスにはパナソニックグループの六つの事業所が入居しているので、毎回、資料を作成するときには各事業所の面積当たりの電力使用量ランキングを入れました。各社の方々が運営委員になっているので、みなさん、やはり自社のエネルギー使用量は気にされるんです(笑)。データを見ながら話し合うことで、どんな無駄があるか、意見交換や情報共有ができるので、それをビル全体の省エネにつなげていきました」

32.5パーセントのエネルギー削減を達成した建物の根本にあった、

自然を感じられる環境をつくろうという設計者の思い

“ビルまるごとショウルーム”。設計段階で生まれたこのキーワードを、クライアントと設計チームが最後まで共有しながら建築が進められたパナソニック京都ビル。省エネ実現に向けた、両者の高い意識とモチベーションの結果、新しいビルは建て替え前の旧京都営業所と比較して、年間の単位面積当たりエネルギー消費量32.5パーセントの削減を達成した。
「ビルに入居している各事業所さんが、グループ会社だったから実現できたという面はありますが、建物を利用する方々の省エネ意識は間違いなく上がったと思います。大型ビルで、すべて自動計測するシステムをつくろうとすれば、そのコストは数千万円という規模になるように、計測やデータづくりにも、当然コストはかかります。ですから今回はエネルギーを”視える化”しつつ、コストは抑える方向で、パナソニックさんから上がってきた種々の計測データを整理・分析して、省エネ意識を高めるようなデータを作成しました。ここで蓄積したノウハウを、今後はぜひ、同規模のビルや次の計画に生かしてもらいたいと思っています」

大幅に広くなり、機能も充実した一階のショウルームは、訪れる人の数も、売り上げも大きく伸びたという。市松模様のルーバーと坪庭が目を引く建物は、一般消費者にエコという印象を与えたに違いない。
「たとえば建物の中に木があると気持ちいい、快適だなという感覚は、数値化できるものではありません。ただ、今回のビルについては意匠・設備にかかわらず、設計者全員が自然を感じられる環境をつくることが大切だという考えを共有していたので、環境配慮というメッセージの伝わりやすい建物になったのだろうと思っています」と意匠設計チームはいう。

オフィスにすることもできるスペースを、敢えて坪庭テラスにして、緑化する。今までどこにも例のない設計サイドの提案を、クライアント側の責任者が最後まで認め、社内に理解を促してくれたように、省エネに向けてクライアントと設計者が目標を共有して取り組んだパナソニック京都ビルは、今後のオフィスビルのモデルとしても注目されるだろう。

写真:*エスエス大阪

本編は2013年12月発行「対話力は設計力」-14号 [発行:安井建築設計事務所、制作・編集:株式会社Eat creative]から転載されたものです

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