19号 エクシブ鳥羽別邸

庭屋一如をかたちにした、和のリゾート

エクシブ鳥羽別邸

名勝、寺社、温泉など、観光資源の豊富な伊勢志摩国立公園地区内に

誕生した、エクシブシリーズ初の、和のリゾート

市の全域が、戦後初の国立公園に指定された伊勢志摩国立公園地区内に位置する三重県鳥羽市。志摩半島に沿って、リアス式海岸特有の岬や小さな入り江が続くこの地域は、波の浸食によって形成された海食崖や海食洞など、自然の賜物というべき特殊な地形が数多く見られる景勝地である。日本の自然と伝統文化を象徴する場所として、G7サミットの開催地に選ばれたように、全国各地から参拝者が訪れる伊勢神宮をはじめ、周辺に多くの観光資源があるうえ、世界で初めて真珠の養殖に成功した地としても知られている――そんなこの地に、2016年3月にオープンした「エクシブ鳥羽別邸」(以下、別邸)は、建物の内・外観から庭園に至るまで、本格的な和の趣をかたちにしたリゾートホテルだ。

会員制ホテルを中心に、現在、国内外で46の宿泊施設を運営するリゾートトラスト株式会社にとって初の試みとなった"和のリゾート"は、その名に相応しい隠れ家的な様相を呈している。2009年の別邸計画開始時から、8年にわたって設計に携わってきた益田正博は、
「クライアントであるリゾートトラストさんが最初におっしゃったのは、本物の和のリゾートをつくりたいという意向と客室数を含めた事業想定の規模だけだったので、和というコンセプトをどのようにかたちにするか、関係者一同、試行錯誤しながら、提案を重ねてきました」と話す。

よい庭をつくりたい。そんなクライアントの要望を"庭屋一如ていおくいちにょ"

というコンセプトでかたちにし、和の繊細さを追求する

竹林を両手に見ながら、エントランス前の、ゆとりある車寄せでスタッフの出迎えを受ける。低い門構えの先にのぞく前庭を通ってオーナーズレセプション(受付)へ向かうと、視界には空の色を映す大きな池が、そしてその延長線上に鳥羽の海と島々が飛び込んでくる。水と樹木がもたらす静寂の気配を感じながら建物へと至る繊細なアプローチ、その先に広がる池泉回遊式の日本庭園と数寄屋風の建築が見事に調和した別邸は"庭屋一如"というコンセプトのもとにつくり上げられている。

「従来のエクシブシリーズは、まず建物の計画とデザインを検討し、庭や外構はあとのバランスで決めるという進め方でしたが、今回クライアントからは"とにかくよい庭をつくりたい"といわれていました。社長が庭づくりの参考にと見学されていたのが、日本を代表する池泉回遊式庭園、京都の桂離宮で、池を中心とした庭を主役に、建物はそこに寄り添うとなると、おのずと庭屋一如というキーワードが出てきました」
庭園を設計・監修した、京都造形芸術大学教授の尼﨑博正氏や環境事業計画研究所のスタッフとディスカッションを重ねながらつくられた日本庭園は、入り江のすぐそばという敷地条件を活かし、池から海へとつながってゆく連続性が、広がりのある景観を生み出している。

"オーナーの方々に、庭を通じて四季折々の風景がある別邸の魅力を感じてもらえれば"と話すように、敷地内のそこかしこに坪庭を設え、館内のどこを歩いていても、窓越しに大小さまざまな庭が目に入る別邸は、文字通り、庭屋一如を体現しているが、このキーワードをかたちにするうえで、益田がもっとも配慮したのは、和の繊細さを表現することだった。
「数寄屋建築に代表される和の繊細さをRC造のホテルでどうやって実現するか、実に悩ましいところでした。高層になると、どうしても和の落ち着いた雰囲気を出しにくくなるのですが、客室数を確保し、かつどの部屋からも池や海が見えるように配置するには、高さ(階)を積まざるを得ません。4階建ての建物を低く見せるために、屋根を分節することでスケール感を落とし、池の周辺に盛土や植栽をするなどの工夫を凝らしました」

 これまでもホテルの設計を手がけてきた益田だが、吹き抜けなどで空間を演出する洋の建築と、屋根や軒のある和の建築は全く別ものだと続ける。
「軒先が高くなればなるほど、和のスケール感から離れてしまうので、車寄せの軒も、大型乗用車が停められるギリギリの高さに抑えました。軒の高さは天井高にも影響を及ぼします。ロビーラウンジも、和のイメージを保つために、軒の高さをできるだけ抑えたいと思ういっぽう、ホテルのラウンジの天井があまり低すぎれば、圧迫感を感じるという声も出てきてしまいます。あちらを立てればこちらが立たずで、そのバランスをどうするか、設計中は終始、そのせめぎ合いの中で作業をしていました」

意匠性が命。そんな本格的な和のリゾートをいかにかたちにするか

デザインや素材の細部にこだわって完成した上質な空間

 ホテルの設計において重要なことはどんなことか。この問いに対して、
「食事をし、お風呂に入り、部屋で寛ぐ。その意味では、環境は全く違うものの住宅との共通点もありますが、やはりホテルは日常とは異なるハレの空間なので、非日常を演出しつつ居心地のよい場所にするために大切なのは、つくり手側がホスピタリティを持つことではないでしょうか」と、益田は答える。数々のホテルを運営するクライアントが顧客の要望に応えるべく取り組んだ初の和のリゾートを、いかにセンスよく仕上げるか。いうは易く行うは難しの設計は、毎回、設計者が会長と社長に直接、プレゼンテーションを行い、設計意図を伝えた。そこで忌憚のない意見を返されては上質な和とは何かを考えることを繰り返し、最初のプレゼンから4年後に設計が完了。現場の監理段階では2年間、鳥羽に常駐したという。

「今回の建築は意匠性が命で、それを実現するための構造、設備、インテリアデザインをどうやって納めるか、現場が始まれば、諸々の課題が毎日のように出てきます。庭についても初めから尼﨑先生に"図面は仮の姿で、石や樹のかたちを見て決めていきますから"といわれていたように、その場でさまざまな対応が求められます。緊急度はそれぞれで、関係者の了解が必要なこともあれば、私が判断するものもありましたが、近くにいて対応することで、なんとか現場でかたちにしたという感じでした」

 庭屋一如というコンセプトに加え、入り江に面した景色を堪能できるようにと場の力を活かした設計も、別邸の大きな魅力になっている。
「初めて現地調査に来たときにもっとも印象に残ったのが、視界に人工物がほとんど入らない海を望む景色だったので、ホテルの最大の売りとなるスパを最高の場所に設置することは、最初から決めていました」
本格的な和のリゾートとはどんなものか。空間全体のセンスのよさ、上質感を、どのように表現することができるのか。デザインや素材の細部にこだわり、非日常を演出しつつ、寛ぎの空間をつくり上げる。季節の移り変わりを映し出す日本庭園を観賞しながら、落ち着いた和の意匠空間で過ごすひとときは、利用者の日常をリフレッシュさせてくれることだろう。

写真提供:リゾートトラスト株式会社

本編は2016年12月発行「対話力は設計力」-19号 [発行:安井建築設計事務所、制作・編集:株式会社Eat creative]から転載されたものです

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