21号 立命館大学平井嘉一郎記念図書館

本の持つ力が見える図書館

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重厚感のあるファサード、3層吹き抜けの書架の谷ライブラリーバレー

大学のアカデミックシンボルとなった、国内有数規模の大学図書館

 新たな知識を得る、情報を集める、思考を深め、その循環を促す……。
そんな人間の知的好奇心を、個々の嗜好に沿って満たしてくれる本というメディア。この共有可能な財産を広く開放しているのが図書館という場だ。
2016年4月、立命館大学衣笠キャンパスに開館した「立命館大学平井嘉一郎記念図書館」は、高等教育と学術研究活動を支えると同時に、その内観、外観、蔵書量などを通じて、大学のアカデミックシンボルとして機能している国内有数規模の大学図書館である。後進の育成に強い思いを持っていた同大学の卒業生でニチコン株式会社創業者、故平井嘉一郎氏の遺志を継がれたご令室平井信子氏の寄付により実現した図書館について、寄付者・大学側と協議を重ねてきた都市デザイン部の山本勝彦は、

「当初から、平井さんには同じ思いでつくられたハーバード大学ワイドナー記念図書館のイメージがあり、ご主人の功績を末永く顕彰したいお気持ちが強くありました」と話す。自然石やテラコッタルーバーを用いた重厚感あるファサードや建物中央に3層吹き抜けで配したガラス張りの書架の谷ライブラリーバレーなど、記憶に残るシンボリックな図書館が完成したことについて、
「今回は意匠、インテリア、構造、設備が早い段階でイメージを共有し、設計作業を進めましたが、これは組織設計事務所ならではの強みだと思います」と、設計担当の戸川勝之とインテリア担当の赤川貴世友はいう。

本物の本が持つ、人に訴えかけてくる力を視覚的に表現したい

そんな設計者の意図をかたちにした、圧巻のライブラリーバレー

1階のエントランスゲートを抜けると、まず、3層吹き抜けのライブラリーバレーが、そしてラーニング・コモンズで学び合う学生の姿が視界に入るように、各エリアが透明なガラスでつながれた館内は、開放的でありながらも落ち着いた、学習の場にふさわしい空間になっている。これまで県立、市立など、複数の公共図書館の設計を担当してきた戸川は、
「それが何なのか、僕にもはっきりとはいえないのですが、いくつか図書館を設計してきた経験から、本物の本には何かを訴える力があると感じていたので、本の持つ力を視覚的に表現するライブラリーバレーのイメージは、設計初期の段階から考えていました。館内はガラスを多用して、視線の抜けをよくしていますが、これは見る・見られるという関係の可視化によって学習意欲を喚起することに加え、北に衣笠山があるという敷地特性やその緑と光を活かそうと考えれば、自然な選択でした」と話す。

蔵書を収める書架をはじめ、閲覧机、椅子、照明など、図書館の設計は他の建物以上に必要とされるインテリア設計のボリュームが大きい。戸川同様、多くの図書館を手がけてきた赤川は、内装や書架、サイン、展示室計画に加え、2000席ある閲覧席をトータルに設計・コーディネートした。
「大学からは”学生の居場所をつくりたい”といわれていたので、まず、インテリアの色調に合わせてベース照明の色温度を調整し、地下から上階へ行くにつれて、落ち着いた環境をつくりました。そうして、学生が思いおもいに気に入った席を選べるように、個室感が強く集中しやすい席からリラックスできる席まで、オリジナルデザインのチェアやデスクも交ぜた設えにすることで、多様な空間を創出しました」

ライブラリーバレーを中心にゆったりと配置された書架と閲覧席は、2、3階とも同じ平面構成でありながら、カーペットの色の濃淡を反転させる、書架の色を微妙に濃くするなどのテクニックで色調をコントロールしているほか、閲覧デスクの仕切りの高さに高低をつけるなど、細やかな配慮によって館内をゾーニングしている。また、風致地区の建物の高さ制限15メートルをクリアするため、上階はリブ付きPC床版を採用し、天井高4メートルを確保。柱間隔14メートルの閲覧室は、利用者にとって明快かつバリアフリーな空間になっている。

「今回は高さ制限もあったので、プロポーザルの段階から構造を見せることを提案しました。高書架の並ぶ閲覧空間は、余計な柱を減らすことで開放感と自由度を高め、かつ強度を保つためにリブ付きPC床版を採用し、2、3階は、このリブのピッチに合わせた上下配光書架照明による、柔らかな明かりで照らしています。PC床版の一部には、床吹き出し空調のスペースとしてダクトなどを納めていますが、こうした意匠は構造、設備を含めた各設計担当者が、図書館のクラシック・モダンというイメージを早くから共有し、設計の骨格をしっかり決めたことで実現できました」(戸川、赤川)

それぞれの来館者が、本とどう出会えるかを考えて設計された図書館は、

開館直後からオープンキャンパスのキラーコンテンツに

2008年に新図書館構想が提起されて以降、設計・建設に至るまで、海外視察を含め、数々の事例を見て研究を重ねてきたというように、大学側が完成に向けて、強い思いと意気込みを持って取り組んできた立命館大学平井嘉一郎記念図書館。エントランスゲートの脇に配置したカウンターをスタッフの執務スペースと直結させるなど、館内は利用者だけでなく、スタッフの使い勝手も考慮して設計されている。

「図書館の設計をしていて毎回思うのが、スタッフの方々はこよなく本を愛されているということです。よい図書館を、という思いが溢れる方々と仕事をすることは設計者としても楽しく、やりがいがあります」(戸川)
「スタッフの方とやりとりする中で感じたのは、図書館は学生だけでなく先生方も利用者であるということです。アカデミックシンボルになっている図書館は、関わる人たちそれぞれの思い入れが強く、大学にとってプライオリティの高い建物なのではないでしょうか」(赤川)

正門に近いとはいえ、キャンパスの中心から見れば端にある施設に学生が足繁く通い、オープンキャンパスではキラーコンテンツとして最後に案内される。多くの人々が活用し、アカデミズムを象徴する大学図書館と他の建物の設計にはどのような違いがあるか、戸川は次のように話す。
「他の建物は、人とどう出会うかを念頭に置いて設計するのに対して、図書館の場合、来館者が本とどう出会えるかを考えて設計している点が大きな違いですね。本との出会いは個人的なものなので、設計者が操作することではないと思いつつ、各々が本と自由に、いろいろな出会い方ができるよう、新たな試みはしてみたいので、その辺りがいつも葛藤するところです」

書架を眺めていると、探している本に辿り着く前に、気になる本に出会ってしまう。おそらく多くの人が経験しているこうしたことは、電子書籍にはないおもしろさであり、圧倒的な蔵書の中で本と出会う楽しさといえる。
関係者一同が本の持つ力を信じ、今後の学びの在りようや、その変化を見据えてつくられた100年建築の図書館は、立命館大学のアカデミックシンボルとして、内外の注目を集めるだろう。

 

  • 【2016年】
    DSA賞 入選 B部門=文化・街づくり空間〈日本空間デザイン協会〉
  • SDA賞 入選 A-2類=公共サイン部門-システムサイン D類=空間・環境表現サイン部門
  • 〈日本サインデザイン協会〉
  • 照明普及賞〈照明学会〉

撮影:エスエス津田裕之

本編は2017年12月発行「対話力は設計力」-21号 [発行:安井建築設計事務所、制作・編集:株式会社Eat creative]から転載されたものです

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