東京事務所

移転連載コラム

Vol.

05

移転の火付け人にインタビューをしました! (前編)

2024.02.29

コラム

―前回はJチームの皆さんから美土代クリエイティブ特区のプロジェクト概要を伺いました。そもそもプロジェクトにGoサインを出す立場の方が何を見据えて移転することを決断されたのか、安井建築設計事務所 村松副社長にインタビューをさせていただきました。

まずはその考え方を形成する背景から伺いました。

田中:早速ですが、建築を好きになったきっかけは何だったのですか?

村松: 実家が銭湯をやっていまして、小さい頃から番台で絵を描いていました。
お客さんに絵描きの方がいたのですがその方に絵を教えてもらっていたこともあり、小学生の頃から建築家になろうと思っていました。
いろんな人が銭湯に来ていて、その頃から人間観察をよくしていて、不特定多数の人が出入りする環境にいるということを小さい頃に経験できたことが今に繋がっているかもしれないです。

もうひとつは、大学卒業後に小さなアトリエ事務所にいた最初の5年間が勉強になったと思います。
建築家がどう考えていて、どうクライアントと向き合うかみたいなところはそのころ勉強させていただいて、当初よく言われていたのが「自分でよく考えること」、「物事を広く見ること」でした。
最初に教えてもらったのは海外に自分の力で行って来いということで、1年かけてヨーロッパを回りました。ヨーロッパのクライアントと建築の話になったときに、クライアントが思っていることや、どのような感性で建築を使ってきたのか世界観がまったく分からなくて。どういう人がどういう生活をしているのか分からない状態でした。

安井建築設計事務所 村松副社長

田中:人間を見ていくことや、観察する示唆みたいなことが幼少期からずっと続いていますね。

村松:そうですね。一人で海外に行ったことで 、人が何を考えているのだろうということをよく考えるようになりました。

田中:クライアントと向き合う時に、イメージがあってもうまく言葉にできないことも多くて。建築家が実際に言語ではなくて、何かを見せて「このことじゃないよ」とか「そうそう、これこれ」とか言語にしきれないところを埋め合わせていくために言語以外のコミュニケーションも取られたりしていくプロセスが大事ですよね。

村松:クライアントとどううまくやっていこうかなとか、どういう利益を欲してことを望んでいるいのだろうとか、そういったことをよく考えて仕事をしています。安井建築設計事務所という前提はもちろん頭のどこかにありますが、人と人との関係を重視しています。

グランドレベルの代表田中が「村松副社長のお話はぜひ私がインタビューを!」と始まった今回の収録です

―人と人との関係を重視されていた村松副社長ですが今回のビルを移転先に選んだきっかけとは何だったのでしょうか。

田中:今回の移転にあたってシャキーンとしたオフィスビルに入る選択肢はなかったのですか?

村松:なかったですね。イメージとしてあったのはきれいなオフィスは嫌だなということでした。どこかないかなと探していたところ、今回移転するビルを紹介されたのですが、最初は古いビルだなと正直思いました。でも、好きに使って良いと言われて、これはチャンスだと捉えました。建築は継続だと思うのですよね。壊さずに古い建物を使い続け、しっかりと使いこなすことが大切だと思っています。

田中:村松さんはどうして建築が続くといいと思いますか?

村松:建築は人間が作る一番大きな財産だと感じていて、それを簡単に壊すというのはどうなのかなと思っています。ただ、みんな“物”で見てしまうのでだんだんそういったことを忘れていってしまいますよね。きれいな物があるとみんなそこがいいと入ったり、暮らしたりしますが、実際はあまり居心地がよくなくて。残すということの価値観が忘れられているように感じます。
また、今回のプロジェクトで私は1階にこだわりました。実は移転先のビルに決めたときに、上の階が良いという意見がありました。風景がいいからという理由だったのですが、私としては設計事務所はそうではないのではないかなと思ったわけです。設計事務所は誰かが来て頼みごとを受けるというような、いわゆる閉じられた会社なので、誰も外に行かないのが普通になっていて、価値観がちょっと違ってきているのではと。それを変えるには舞台が必要であり、それが1階だと思いました。

田中:今回のご決断は「上にしようよ」という意見もあったように、今時の移転としては「え、なんで?」というように言われますよね。

村松:ちゃんと自分たちで発信できるような環境や場を作っていく必要があるなと考えていました。できているきれいな場所は心地いいかもしれないし、きれいな家具があって工夫された感があっていいよねと一度は言うかもしれないけれど、その後続かない気がするのですよね。だから常に作り続ける、使い続けるという頭が切り替わるような場というのが人には必要だと思います。

田中:先程のアトリエの話もですが、「結局この人は何を見たいのだろう」、「何をしたくてやっているのだろう」というところを開いてあげて、「本当はこういうことでしょ」ということを示唆してあげられるのも建築の設計プロセスの大事なところですよね。

村松:それが出来る人を育てる場でもあるし、それができるような技術を作っていく場でもあります。実験場みたいなものですよ。
設計事務所は結構コンサバティブ な業界だから、そこまでやらないのですけど、それをやってみたいなというのが今回のプロジェクトです。

東京事務所移転前の最終出社日に記念写真を撮影。平河町の細やかで落ち着いた雰囲気も好きでした!

―移転先を決める段階から1階にこだわりを持たれていたというのは魅力的なお話でした。後編へ続きます!

聞き手・文 グランドレベル

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