東京事務所

移転連載コラム

Vol.

06

移転の火付け人にインタビューをしました! (後編)

2024.02.29

コラム

―前編では安井建築設計事務所 村松副社長に建築や人との関係性や移転先を決めた時のお話を伺いました。
後編では、まちにひらいた場所が働く場所になるときにどのようなことを期待されているのかお聞きしたいと思います。

田中:美土代クリエイティブ特区では何をどうしていくのか1から描いてもいいけれど、そうじゃなければいけないという縛りもないですよね。

村松:毎日変わった風景が見られるのが一番楽しいかなと思っています。
想定外のことが一番楽しいですよね。ちょっと変な人が入ってきて、変なことをやっていてもよくて、そういう場に自分たちが慣れ親しんだ時に組織の人たちが変化するものだと。そういったことができてくると面白いなと。
建築家は建物だけ作っている存在じゃないと思っています。
まちを作ったり、事業を作ったりする存在になりつつあると思うのです。建物や建築を作るのはスキルがあれば誰でもできますし、AIが出てきて、何でも生成してくれるようになりました。そうすると建築に何が残るのかということになります。建築家はそれを使いこなせないと意味がなくて、人の心に入り込んだりすることが大事なポジショニングなので日頃からそういう鍛え方、見方をしてないとそういったところには辿り着けない。そういったことが出来ると、よりクリエイティブさも出てくると思いますし、建築をやる人はキュレーターみたいなものでそれが出来ないとなかなか生き残れないと思っています。

田中:人間しかできないキュレーション的な仕事は不測の事態や、意味とか価値がないものに対しての許容や理屈じゃ解き明かせない何者かでいられるということですよね。
社員の皆さんがそういうことを気付かぬうちに身につけていくようなことが今回の1階のあり方なのではないかと思います。

村松:それが一番いいのかなと思います。これまでの私の体験のように美土代であれば比較的自然に身に付くのかなと。いくら教育教育といってもなかなか身に付かないと思うので日頃のそういった体験の場から身に付けるのがいいですね。

昨年7月のお茶会#1での一コマ。グランドレベルの屋台に立たれた姿はまさに非日常的です!

田中:今回のプロジェクトで感動したのが、御社だけではできないことをまちの人や経年変化した建物に教えてもらおうと思っているというか、出会おうと思って探した訳ではないものに対して、学びや体験をしたいという器を作ろうとしているところにありました。
これまでの建築家像として歩んできた方も、業界にも御社のスタッフの皆さんの中でも良かれと思ってそうされてきた方が、そうじゃない扉を開けるためには、ある程度時間をかけてさまざまな体験が必要ですね。

村松:これからを担っていく若い人が育ってくれたらいいかなと思っています。

新しいオフィスの1階で定期開催している「特区トーク」。1階の具体的な運用についてみんなで話し合いながら進めています。

田中:日々の風景の中に今回の1階のような場所があると御社にとってもトライアルというか他の設計事務所とは全然違う吸収のし方になるのではないかなと思います。

村松:それが一番上滑りしないオフィスの形じゃないかと思います。心地良いオフィスってほとんどが涼しくて環境が良いことと答えると思いますが、これからは心地良いとはどんなものかをちゃんと自分の言葉で説明できないといけないと思います。

田中:美土代プロジェクトを決定されたことと、会社がこんな風になっていったらいいというイメージがすごく相性がいいと思っています。

村松:会社が100年続いてきているから歴史があるとよく言われますが、歴史があるだけではこれからはやっていけないなと思うので、なぜ続いてきたのか、建築をどう見てきたか、そういったところがきちんと理念としてないといけないと思います。自分たちが建てた物をどう残していくか、そういうことを統合的に出来る事務所じゃないといけないのではないかなと思いますね。

田中:今回の1階のプロジェクトで御社の一人ひとりの属人性がまちの中なり組織の中であっても見えたらと思っています。

村松:それも目的のひとつですね。一人ひとりの個性が出てくるというか。同じ人はいないですからね。神田には変な人も昔からいる人も新しい人もいろいろな人がいる環境ですよね。それが良いのではないかと思っていますね。
私たち平河町という非常に穏やかな場所で過ごしてきた人たちが神田に行って、神田のまちの人もいるだろうし企業人もいるだろうし、そういう人たちと接点を持つと、だいぶ違ったりするかなと思いますね。

昨年10月にJチーム(設計チーム)で東京ビエンナーレに行き、スローアートにちょこっと参加!
神田ポート前の路地に畳を敷き詰めた「なんだかんだ」。畳から見る都会の雰囲気が印象的だったそうです。

田中:そう思います。いろんな価値観があるところも、いろんな人に出会うということは、御社のアウトプット、どんな建築をどう実現するかというところに繋がっていくと思います。

村松:今までとは変わってくると思いますね。建築以外でも言えることですが、個人の見識や価値観が、結局はその会社全体の力を上げると思います。会社の力として見ると結果として個人の力の集合体でしょうね。個人の凸凹した力が、私はいいかなと思います。

田中:今回のプロジェクトは、これからどんどんいろんなことをコンピューターにしてもらえる時代を迎える中で、人間にしかできないこととは何だろうということを掴みにいくきっかけでもあると思っています。

村松:そうですね。この100周年と言う節目とテクノロジーが発展していく過渡期の中でテクノロジーの発展にばかり注目されがちですが、テクノロジーを使いこなすのは人間なので余計に人間力が大事になってくると思っています。
テクノロジーが発展したとしても考え方や行動は自由です。一方で自分が利便性に供するものはデータ化することを利用してもいいかなと思います。結局一番効率的にいろいろなことをできるところまで来ています。もうルーティンはお任せして、考えることや行動は自由にお互いwin-winな関係になるようなデータの使い方をしていきたいです。

田中:本当に自由に自分の頭で考える不要不急のことを満喫するという贅沢を楽しむために、いろんなルーティンや記録をつけることがいろいろ任せられる世の中になっているように感じていて、こればかりは数値化できないことが今回の1階でも起きてくると思いますし、みんなが重要だと思っていないとしても、御社の武器がそういったことになっていくのではないかなと思います。
これから実際に移転してどんな事が起きてくるのか、今から楽しみにしています。

聞き手・文 グランドレベル

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