バレーボールの聖地を目指す、鳥栖のアリーナ

バレーボールの聖地を目指す、
鳥栖のアリーナ

プロジェクトメンバー

国際部兼設計部
楠 敦士 (左)

設計部
古賀 祐衣 (中)

九州事務所
小島 幸弘(右)

サロンパス アリーナ

2027年の完全プロ化に向けて、2024年10月に始まったバレーボールのSVリーグに所属するSAGA久光スプリングスの拠点として、2023年春に誕生した「サロンパス アリーナ」。鳥栖の地に体育館をつくりたいという人々の思いをどうかたちにしたか。3人の設計者が語った。

サロンパス アリーナのプロジェクトに関わった経緯について

小島

久光製薬さんとのお付き合いが始まったのは「久光製薬ミュージアム」を設計した10年ほど前です。

僕は小島さんと一緒に企画の段階から久光製薬ミュージアムの設計に携わっていたこともあり、その流れで今回のサロンパス アリーナの設計も担当することになりました。

古賀

私は入社して初めて携わったのが、サロンパス アリーナのプロジェクトです。設計も初めてという状況の中で、いろいろ学びながらこのプロジェクトに携わりました。

小島

新人の古賀さんに参加してもらったのは、このプロジェクトが女子バレーボールチームという女性のための施設だったこともあります。久光製薬さんには、女性が輝ける場をつくりたいという思いがありましたから。

選手のみなさんにヒアリングする際も、やはり女性の視点は大切で、いろいろ意見を出してもらいました。古賀さんからの発信は我々だけでなく、お客さんにとっても納得感があったと思います。

古賀

クラブハウスも含めて、選手のみなさんが何を求めているかを考えて、提案をしました。

小島

僕らにはなかなかわからないのは、パウダールームなどです。鏡や照明などもどんなものがよいか。ひとつひとつ検討する上で、古賀さんの意見は大きかったですね。

古賀

選手のみなさんへのヒアリングでは、会話を重ね、少しずつ距離を縮めながら、希望を聞くことができたと思います。

アリーナの設計と、他の用途の設計との違いについて

小島

サロンパス アリーナは、バレーボールに特化した体育館であることが大きな特徴です。久光製薬さんにはこの地をバレーボールの聖地にしたい、という気持ちがあると思います。その一方、敷地は市から借りているので、サブアリーナについては市民に開放できる施設としてつくってほしいという要望がありました。

プロチームのクラブハウスを併設していることも、行政がつくる公共施設としての体育館との大きな違いです。プロチームの練習拠点であるサロンパス アリーナは、選手のロッカールーム、控え室・休憩・食事をするスペース、身体をメンテンナンスする場所など、選手がここで1日過ごすためのクラブハウスの機能を備えています。

古賀

私はクラブハウスのロッカー周りの内装などを提案しました。白を基調に明るく、チームのアクセントカラーの青を取り入れつつ、健康的なイメージで、選手のみなさんにホーム感を感じてもらえればと思っています。

練習拠点であるメインアリーナで優先したのは、ボールの視認性です。黒系、ナチュラル系をベースにいくつか提案しましたが、演色性を少しでもよくしようと、最終的には黒ベースの色彩にすることで落ち着きました。あと、久光製薬ミュージアムは佐賀県で初めて、完全ZEBを達成した建築だったように、久光製薬さんは環境に対する意識の高い企業です。今回のサロンパス アリーナについても、ZEBは会社として当然の取り組みでした。最近では、この規模のアリーナでZEB Ready を達成している建築も増えていますが、設計・施工時点での事例は1~2件しかなかったと思います。

小島

遠征以外では、毎日選手がここで練習していますが、今のところ、みなさんは快適にアリーナを使ってくださっているようです。久光製薬さんが毎年主催している市民講座も、今年はアリーナで開催されました。スポーツ系のイベントでは、スプリングスの交流試合、の高校バレーの佐賀県決勝大会、国民スポーツ大会、ママさんバレーの会場になっています。1階はスプリングスの選手専用ですが、館内の2階には市民用のトレーニングジムがあるので、僕も毎週ジムに通っています。

体育館設計のおもしろさとは

古賀

ほかのプロジェクトにも関わったことでわかったのは、無柱の大空間をつくること自体、なかなか携わるチャンスが少ない設計だということです。大空間をどのようにつくるかを検討することは、体育館設計ならではの経験でした。

小島

選手がこの空間をどう使いたいか。ヒアリングしたことを盛り込みながら設計したように、利用者が見えるところが、サロンパス アリーナのプロジェクトのおもしろさだったと思います。

建物によっては事業者と利用者が違うこともありますが、ここでは利用者が選手であることは明確で、選手のみなさんと対話しながらつくることができました。僕は個人的にプロスポーツの世界に興味があったので、日本を代表する選手にヒアリングするなど、設計を通じてプロスポーツの世界に関わることができたのは、特別なことでした。そういう点も、設計の仕事の醍醐味ですね。

小島

久光製薬さんの仕事はミュージアム、アリーナ、その後、研究所の企画・設計に関わりましたが、エンターテインメントの世界であるアリーナには華やかさがあります。メディアからも注目されるので、我々もどういった見せ場をつくるか。サインひとつとっても、ここだと写真を撮ってもらえるね、などと考えました。

古賀

ここからだとマスコットキャラクターのハルちゃんがよく見える、よい写真が撮れます、いうことも、外構計画をする際には提案しましたね。

小島

選手のみなさんに「アリーナはどうですか、不具合はありませんか?」と聞いてみたりしますが、「快適に使っています」と、いわれています。

スタッフの方と話したとき、「これだけ快適でよい施設を用意してもらっているのだからしっかり勝たないと、と、選手にはよい意味でプレッシャーになっているようです」といわれました。

人の思いをかたちにするのが設計者の仕事

古賀

入社するまで設計者は図面を描くことがメインの仕事なのだろうと思っていましたが、図面を描くよりもお客さん、役所の方、社内の他の部署といろいろやりとりすることが多い仕事だと、入社後に実感しました(笑)

僕も入社前は、設計者はずーっと図面ばかり描いていると思っていましたが、図面を描くのは仕事のごく一部で。

古賀

いろいろなやりとりを終えて、はじめて図面に取りかかるという感じですね。

設計者に求められるのは、コミュニケーション能力です。お客さんの望みを実現しながら、設計者としてやるべきことを盛り込んでいく。そのためには、コミュニケーションが欠かせません。毎回、プロジェクトの性格も、お客さんの性格も違う中で、重要なのはその時々に合わせてプロジェクトをコントロールしていくことです。

小島

我々設計者の仕事は、相手の思いや夢をかたちにすること。僕には、そんな持論があります。建築は、それぞれの人生にとって、もっとも大きなものです。ただ、お客さんの中には「こんな風にしたい」という思いがいろいろあるので、パズルを合わせるようにそれを組み立てながら、ひとつのかたちにするのが設計者の仕事だ、と。

古賀

私にとって、サロンパス アリーナは初めてかつ、最初から最後までひと通り携わったプロジェクトで、設計の流れやお客さんとの接し方など、多くを学びました。

小島

安井は若い社員でも、積極的にプロジェクトに取り組む人なら、お客さんと一緒にどんどんつくり上げていける会社なんですよ。

古賀

たしかに入社して数カ月で、「古賀さん、プレゼン、よろしくね」といわれました。

小島

古賀さんのようにプレッシャーに動じない度胸のある人はなかなかいないんですけど(笑)。

古賀

実際、入社から数カ月、初の設計でプレゼンする機会を与えてもらったサロンパス アリーナは、本当に思い入れの深いプロジェクトです。大阪本社の会社を軸にリクルート活動していたので、私はもともと安井に興味があったのですが、各設計事務所が大学で開いた企業説明会の中で、安井だけ雰囲気が全然違ったんです。

楠・小島

どう違ったんですか?

古賀

他の設計事務所の方たちはとてもピシッとしていたのですが、安井の方々はホワッとしているというか、やわらかくて。「ここ、なんか楽しそうやな」と思ってインターンに行ったら、すごくいい感じで(笑)。そんな経緯から、安井に入社しました。

若い人にチャンスのある会社

実際、会社には若いスタッフがどんどん入っているし、チャンスは誰にでもあると思います。

小島

サロンパス アリーナもそうですが、その後、竣工した研究所でも、若手が頑張ってくれました。

研究所の設計は、これもまた特別なところがあります。企業として目指している研究所の具体的な部分と企業のカラーをどうフィットさせるかも大切です

小島

体育館は利用者に向けて開放している施設ですが、研究所は閉じているという点が大きな違いですね。話が戻りますけど、安井は若い人にチャンスのある事務所だと思うのは、自分自身の経験からでもあるんです。僕は入社後すぐ、新鳥栖駅の設計を担当したのですが、大学時代、卒業設計で選んだ課題が新鳥栖駅でした。もちろん卒業設計のデザインと、入社後のデザインは違いますが、鳥栖に停車する新しい新幹線の駅の設計に関わることができる、そんなチャンスがあるんです。

古賀

まだ経験が少ないので「毎回、初めまして」ではありますが、私もいろいろなプロジェクトに関わっています。組織設計事務所なので、いろいろな用途の設計に携われることも安井の魅力です。私は学生時代から、人の思いを引き出すことのできる、人に寄り添える設計者になりたいと思っていました。自分の知識や技術を応用しつつ、相手の思いをかなえることができる、そんな設計者になりたいです。

設計はひとりでではなく、チームでする仕事です。社内でも構造、設計などいろいろな部署があるし、当然お客さんとのチームワークもあるし、施工段階に入れば施工者とのチームもできます。よい建築ができるために必要なのがチームワークで、そのためにもきちんとコミュニケーションを取ることが大切です。設計は、お客さんの要望だけでなく、敷地条件、工期、コストなど、さまざまな条件があります。それらをいかにバランスよくまとめあげるか。それが設計力だと思います。

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