情報を発信する建物

大阪国際大学・短期大学部 食堂棟 『Kus-Kus Cafe』

大学の新たな顔づくりの一環となった
〝食堂〟から〝カフェ〟への建て替え計画

世界12ヵ国に30の協定校を持ち、併設機関・国際交流センターを通じて幅広く海外留学生を受け入れるなど、〝グローバル・マインド〟をキーワードに、世界で活躍する人材の育成を基本理念に掲げている大阪国際大学・短期大学部(以下、OIU)。楠の大樹に囲まれたOIU守口キャンパスが平成3年に「守口まちなみ賞」を受賞しているように、同校は緑を大切にしてきたことでも知られる学園である。
この守口キャンパスでもっとも新しく、かつ目を引く建物が、その名の通り〝食堂〟よりも〝カフェ〟という呼び方がしっくりくる瀟洒な学生食堂「Kus-Kus Cafe」だ。
学園カラーである茶褐色を基調にしたシックな外観、建物の一部をゲートに見立てるという発想から生まれたピロティ、グラウンド側の壁面をガラス張りにした開放感のある空間、この建物が新たな食堂棟であることをひと目で認識させるリーフ及び23.4度の傾きをモチーフにしたグラフィックサイン、北欧製の家具やオーダーメードの照明を取り入れたスタイリッシュなインテリア……。そこここに遊び心をちりばめながら、居心地のよい空間をつくり上げた設計担当の影林督諭が、大学に対して提案したのは、〝それ自身、情報を発信するブランド力とメッセージ力を持つ建物〟というコンセプトだった。

Green x Global
2つのGをグラフィックサインとして設計に落とし込む

国内外で活躍する人気のインテリア・デザイナーが学生食堂の内装を手がけ、建築雑誌でも「学生食堂」特集が組まれるなど、大学の食堂を巡る環境が大きく変わり始めていた2005年。OIUもまた、次世代の学生に向けて、大学の新たなサインとなるような食堂の再建を検討していた。
「大学側からは〝とにかくお洒落で人が集まる、たとえばスターバックスのような雰囲気の食堂を〟といわれたのですが、それならそれ以上のものをつくろうじゃないか、というところから始まりました」
大学の施設である以上、新しい食堂はただ単にお洒落で居心地がよい空間であるだけでなく、OIU のメッセージをアピールする存在にしなければならない。大学側の要望を聞いて、検討を重ねた末、影林がOIUのイメージを象徴するものとして用意した二つのモチーフが、GreenとGlobalという二つのGだった。
「楠の大樹が象徴するように、OIUは緑とともに歩んできた学園なので、やはり新たな施設も建物全体を緑のイメージで表現しようと考えました」
道幅5メートルで住宅と接している西門側は、地域住民のプライバシーを考慮するとともに、周囲の環境に違和感なく溶け込むように、壁面に蔦を這わせる。その一方で大学の構内、グラウンドに面している食堂棟の東側と南側は全面ガラス張りにすることで、開放感と賑わいを表現。さらに、影林は楠の葉をモチーフにしたリーフ、そして地軸の傾きである23.4度をグラフィックサイン化し、施設の内部と外部のデザインを統一するべく徹底して利用した。
「西門からピロティ、グラウンドを望む全面ガラス、建物の中に入ればエレベーターホールや階段、トイレ、ペンダント照明、そして衝突防止に至るまでリーフサインと傾きサインを使ってデザインを統一したことによって、『Kus-Kus Cafe』という建物自体が大学のビジュアルサインとなり、情報発信装置となったのではないかと思っています」
周辺環境に違和感なく溶け込む食堂棟のもうひとつの魅力は、どこで食事をしていてもグラウンドを眺めることができる視界のよさだろう。平屋から3階建てになった建物は、1階はカフェ、2階はダイニング、そして3階にはサロン+屋上テラスと、階によってインテリアや雰囲気にも大きな変化をつけているが、これについては、
「食堂は毎日利用する場所なので、快適で魅力ある居場所をつくろうと。ハイカウンターの席があれば、ハイバックソファもあり、丸テーブルと長テーブルだけでなく、巨大な三角テーブルを配するなど、椅子もテーブルも空間のイメージに応じてさまざまな種類を用意したのは、気分によってマイ・ベスト・シートを選んでもらいたいと思ったからです」と話す。
食堂で、ピロティで、談笑する学生たちのくつろいだ姿は、遊び心溢れる空間の居心地のよさをそのまま伝えているといえるだろう。

新しいことに挑戦しようという大学側の姿勢と
設計者の思いが、最良のかたちでコラボレート

食にこだわり、普段から趣味と研究を兼ねて、気になるカフェやレストランには頻繁に足を運んでいるという影林は、人が集まって楽しく食事ができる社交場的な空間は、レストランだけでなく大学内にあってもよいはずだという思いから、「Kus-Kus Cafe」を設計したと語る。
「たしかに以前も同じ場所に食堂はありましたが、今、ピロティになっている半屋外空間や屋外テラスなどはなかったので、照明やシートレイアウトも含めてくつろいで会話のできる空間をつくろうと検討しました」
コンペ提案時のイメージと完成した建物を見比べても、ほぼ変更がないように、受託後の協議において、そのデザインセンスによって選ばれた計画案について、大学側からはほとんど制約はなかったという。
「もちろん決定権は学校にあるので、なぜこうするのか、この素材を選んだのか、一つひとつきちんと説明をしたうえで納得してもらうというプロセスは踏みますが、照明や家具などインテリアも含めて設計を任せていただいたように、担当の方が全面的に信頼を寄せてくれたことが、自分自身にとっては何よりやりがいにつながりましたね」
設計者が真剣に検討を重ねた末に提案してくれたものに、建築に関しては素人である自分たちが口を出しても、きっと破綻を来すだろうから ――
そういって設計者に一任した背景には、理事長をはじめ、大学側のスタッフに新しいことに挑戦しよう、新しいものを生み出そうという意思があったのではないかと影林はいう。
気分によって使い分けできる選択肢があるうえ、居心地がよいのでつい長居をしたくなる ―― 構内にそんな空間ができたことで、以前とは比較にならないほど食堂を利用する学生の数が増えるという嬉しい傾向も進んでいるという。ただ単に食事をする場所という以上に、人が集う空間となった
「Kus-Kus Cafe」は、大学の前向きな姿勢と設計者の思いが最良の形でコラボレートした結果、誕生した施設といえるだろう。

設計担当者

大阪事務所設計部 主任 影林督諭

設計担当者の肩書は、2008年12月の発行時のものです

シェア

他の記事

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。