ふれて、感じて、考える
すべてが学びの場

大阪国際中学校高等学校

吹き抜けと大階段が目を引く、内に開いた校舎棟
分棟化し、個性ある庭とつながる、外に開いた特別教室棟

1929年、帝国高等女学校の設立に始まる学校法人大阪国際学園グループ。2022年4月に大阪府守口市に誕生した「大阪国際中学校高等学校」は、全人教育を建学の精神に掲げる同学園グループの新設校だ。
中央に設けた吹き抜けとトップライト、大階段によって建物を横だけでなく縦にもつなぐことで巨大なワンルームとなった校舎棟は、廊下部分を共有空間として活用。すべての教室をこの共有空間、コミュニケーションコモンズに面するようにした配置計画は、偶発的な出会いや学年を超えた生徒間の交流をもたらしている。また、校舎棟の壁面に設けた書棚には、専属の図書館司書がテーマ別にセレクトした本が並び、白い壁には、古今東西の書物から引用された含蓄のあることばが美しく刻まれている。
分棟化した平屋建ての特別教室や街中にあるカフェのような食堂の雰囲気も含め、従来の中学校や高校の校舎と全く異なる印象を受ける同校について、設計者としてそのキャリアの約半数で学校設計に携わってきた清原健史は、
「一般に学校内では上履きを使うので、校舎に下駄箱のスペースを設けますが、本校では災害時の避難という点も考慮し、一足制を選択しました。学校全体の空間構成や教室の配置、窓の大きさや植樹する樹種などについても、既成概念にとらわれず、学びの場のあるべき姿について、設計チーム内で議論を重ねて計画を詰めていきました」と話す。

真の国際人を育てるために、学びの場はどうあるべきか
この問いについて1年間、検討を重ね、設計者としての解答を出す

中高一貫教育を行なう新設校のための新校舎の設計は、どのように進められたのか。そのプロセスを清原はこう振り返る。
「初めて理事長とお会いして間もなく、新たな学校で育てる人間像の話題になり、理事長からは“国際人を育てたい。国際人とはただ外国語を話すことができる人ではなく、自分の文化を語ることができる人、海外の人の文化を理解した上で対等に話ができる人”といわれました。“そういう真の国際人を育てる学びの場を創ってほしい”というのが理事長から私たちへのリクエストだったので、そのことばを原点に検討を重ねました」
面談で理事長が語った話をもとに、学びの場のあるべき姿を考え、アイディアをまとめ、次回の面談で提案する。学校側からのフィードバックを反映して、次の提案の準備をする。まだ開校時期が定まっていない段階で始まった月に1度の面談は、1年間ほど続いたという。こうして対話を通じて理解を深めながら、最終的に設計側が解答として出したのが「ふれて、感じて、考える すべてが学びの場」というコンセプトだった。
「生徒たちがさまざまな文化、伝統、自然という未知の世界に、ふれて、感じて、考えることで、多様な価値観を身につけ、自分をみがくことができるように、すべてが学びにつながる場づくりを目指しました」
このコンセプトを象徴するのがキャンパスの配置計画だ。キャンパスはグラウンドを中心に、円弧上に校舎棟と特別教室棟、個性あるMANABI庭がちりばめられ、学びの連鎖を起こす配置となっている。
「配置計画は、設計の中でも最も重要です」と、清原は話しているが、建物の内と外をどのような動線で結ぶか、その良し悪しが視線の通り方や関係づくりに影響する学校では、配置は他の建築以上に重要になるのだろう。清原とともに本校の設計を担当した山崎 拓と古田大介は、
「どんな学校なら行きたくなるか。めちゃくちゃ楽しくなる学校を考えようと、アイディアを出し合いました。中央の階段と吹き抜けの開放的な空間は、いろいろな学年の生徒が出会い、教え合う学びの環境につながるだろう。壁全体が図書館だったら、本が身近に感じられるだろう、と。文化・芸術活動を行なう特別教室を分棟化しようという案も、このときに出てきました」と話す。
建築のプロではない人たちにも意図を理解してもらえるように、今回の設計では、建物の成り立ちや関係性を図式化したダイヤグラムを利用している。ダイヤグラムを使った理由について、山崎はこう話す。
「説明される側のためだけでなく、ダイヤグラムで情報を整理すると、設計側もプランをまとめやすいんです。たとえば特別教室の扉の両脇に設けた展示スペースのように、図面に描きにくいけれど必要なものも、ダイヤグラムには簡単に書き込めます。建物の配置だけでなく、場所と人との関係性が見えると、誰にとってもわかりやすくなるのだと思います」

自分をみがく、五つのテーマの書棚に並ぶ本。
敷地内の其処此処に美術館のように刻まれたことばで、本の重要性を伝える

あらゆる場面でデジタル化が進む時代にあっても、大阪国際中学校高等学校は学びの場において、本を重要なものと考えている。その方針は図書館司書がつくる書棚だけでなく、敷地内の其処此処にサインとして掲示された、本から引用したことばによって視覚化されている。
「引用は日本語だけでなく、英語、ドイツ語、ラテン語など作者の母語で表現されています。母語による表現は、興味を持った生徒がそのことばを調べる、そのプロセスが大事だろうという理事長の考えからです」(清原)
世界、日本、歴史、社会、自分……。各書棚のテーマや特別教室の科目に合わせて刻まれた、それぞれの場に相応しいことばは、生徒たちの裡に留まることだろう。文字のサイズや色などで目を引こうとせず、落ち着いたデザインのサインを選択しているところにも、生徒を子ども扱いしないサインデザイナーの意向を尊重した、学校側のスタンスが感じられる。
清原とともに理事長との面談に当初から参加していた古田は、大学院で研究テーマにしていた学校と図書館の設計に関わったことについて、
「みんなが集まる、ひとりで勉強できるなど、学校にはいろいろな居場所が必要ですが、学生時代に考えた延長線上で、居場所を見つけられる学校になったかなと思います」と話す。研究が進んでいる学校設計は、かたちや仕組みはすでに出尽くしているかもしれないけれど、といいつつ山崎も、
「プログラムについては、まだいろいろ提案できると思いました。そのひとつが学びに特化した建築を実現することで、そのためにどんなことができるか、考えること自体がとても楽しかったです」と振り返る。
教室の配置、窓の位置やその大きさ、二足制など、学校には従来の慣習も少なくない。だが、当初から既成概念にとらわれることなく、学校のあるべき姿を考えてほしいと話していた理事長は、設計チームが熟考の末に提案したアイディアを積極的に受け入れてくれたという。
設計者にとってもいろいろ挑戦ができたプロジェクトは、建築主に満足してもらうことができただけでなく、入学志願者数が増加したように、生徒の、学校への関心を高める校舎となった。

設計担当者

大阪事務所設計部 設計主幹 清原健史

大阪事務所設計部 設計主任 山崎拓

大阪事務所設計部 設計担当 古田大介

設計担当者の肩書は、2022年12月の発行時のものです

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