小中合築という新たな試みのモデルとして

王子小学校・王子桜中学校

時代に応じて変化する教育システムに対応するべく、
許容範囲の広さが求められる学校の設計

2009年2月に竣工した「北区立王子小学校・王子桜中学校」は、同じ敷地内に小学校と中学校を併設した、同区初の小中合築型学校施設である。同年4月に新学期がスタートした新校舎は、〝小学校エリア〟、〝中学校エリア〟、そして小中学校の共用施設と地域開放施設を主とした〝連携エリア〟という3つの施設によって構成されている。
風や光など、自然の変化が繊細に反映される中庭や吹き抜け空間、用途に応じて空間を使い分けできるように可動式の間仕切りを取り入れた、オープンスペース型の小学校教室、小中学校の連携エリアに設けられたギャラリー空間、学年間だけでなく学校間の交流にも活用され、食育活動の場となっている広いランチルーム、地域に開放されている王子ホールや天井高12.5メートルとバレーボールの公式戦もできる中学校体育館……。北区の小中一貫教育のモデル校になっている2校を一巡すれば、機能性はもちろん、子どものアクティビティに配慮した設計上のさりげない工夫を随所に感じることができるだろう。他の建物以上に許容範囲の広さが求められる学校という施設の設計を担当した山野信彦と小西聖子は、
「1クラスの人数やカリキュラムなど、教育は時代に応じて変化していくものなので、こうした将来の変化に柔軟に対応しつつ、50年後も使用できる施設にしなければいけないという点を意識して設計しました」と語る。

〝つながる学校〟というコンセプトをかたちにするため、
交点に連携エリアを配置したL字型のゾーニング

北区では、30数年ぶりの新築校となった「王子小学校・王子桜中学校」を設計するにあたって、山野と小西がプロポーザルの時点から提げていたのが〝つながる学校〟というコンセプトだった。小学校と中学校、学校と地域、学校と自然や地球環境などが緩やかにつながり、互いの関係性を築いていくことが、これからの学校や地域社会に求められていることではないか。そんな考えから、大まかなゾーニングは決まったという。
「小中学校をL字型の両翼に配置して、その交点に〝つながる学校〟としての諸機能を配置するというゾーニングは最初から提案していたもので、設計に入ってからも大きな変更はなく、詳細を詰めていった感じですね」
併設のメリットを生かしたよりよい設計の参考とするため、2人が見学に足を運んだ学校の数は、5~6校にのぼったそうだが、
「子どもが空間の中でどのように動き、施設をどのように使っているか。学校見学では、設計そのものよりも、実際に空間や施設がどう使われているかを見られることが何より参考になりました。子どもたちは、図面から想像していたのとまったく違う行動をするので、彼らの動きを見ることで、じゃあこんな工夫をしてみようかとなるんです」(山野)
空間のしつらえが微妙に違うだけで、子どもたちが大勢集まる場所ができる一方、物置のように閑散とした空間ができてしまうこともある。頭よりも直感で場の気配に反応する子どもたちが過ごす学校という場所では、そんなことも珍しくないそうで、2人は彼らの好奇心に働きかける空間をつくるために、子どもの目線に立って設計することを心がけたという。
「廊下の突き当たりの壁には開口部を設けていますが、こうするとつねに、前方に光を感じることができるんです。歩いていく正面が明るいと、それだけで空間の雰囲気はまったく違ってくるんですよ」(小西)
こうした窓の多さや各所に設けた中庭に加え、教室がガラス張りであることも、学校を開放的な雰囲気にしていることは間違いないだろう。もうひとつ、「王子小学校・王子桜中学校」でしか見られない不思議な空間として挙げられるのが、「王子街道」と名付けた正門からのアプローチに設けられたステンレス仕上げの吹き抜け、通称「光の井戸」だ。
「登下校の通路になっている王子街道は、日々行き来する場所なので、子どもたちの好奇心に応えるためにも、びっくりさせるような仕掛けをしたい、という気持ちはありましたね」と山野が語る「光の井戸」は、「中庭が暗いのではないか」という先生方からの懸念への回答として生まれたものだった。四方を囲むステンレスの壁は光の反射板となり、時間や天候によって、その表情を刻一刻と変えていく。位置やかたちをランダムにした窓に目を向ければ、校内を歩いている生徒の頭や足が見え隠れするが、
「すべての窓が同じ高さだと気にならないのですが、見えたり、見えなかったりすることで、逆に関心を惹くという効果は出てきますね」(小西)

独立性を保ちつつ、有機的な連携を実現するため、
小中一貫校よりも難しい工夫を求められる小中合築校

北区初の試みとなった、小中合築型の学校施設をつくるにあたっては、設計段階で学校、PTA、地域の人々を交えたワークショップを重ね、よりよい学校づくりのための意見交換が行われた。
「学校について、地域の人々や先生方がどのように考えているか。互いの意見を交わしてもらい、それをよりよい建物づくりに反映することがワークショップの目的でした。違う立場の人同士が話し合うと、偏った意見が淘汰され、計画案が洗練されていくし、何より地域の人々の参加意識や建物への愛着が高まること。それがワークショップの何よりのメリットです」(山野)
プールは小中学校が共用するのだから、利用期間を延ばすために屋根をかけるべきではないか、小学生にはできるだけ南向きの部屋で授業を受けさせてあげたい……こうした意見は、ワークショップでの発言から検討され、設計に反映されていった。
小中学校の独立性を保ちつつ、2校を有機的に連携してほしい。そんな北区からの要望に応えるために、プール、ランチルーム、王子ホール、特別教室のギャラリー、屋外の運動場などは共有の施設になっているが、
「今回のように、同じ敷地に別々の小中学校を合築する試みは、今まであまりないケースなんです。小中一貫校の場合、特別教室などを2校共通で利用することもありますが、互いの独立性を保ちながら、つながりを持たせるというのは、小中一貫校よりも難しかったと思いますね」と山野はいう。さらに2万2千㎡を超える広い敷地は学校環境として恵まれているものの、選択肢や可能性も広がりすぎるという面もあり、建物や教室の配置については膨大な検討を重ねることを余儀なくされた。
自身のことを振り返っても、学校から受けた影響は少なくないですね、と山野が話すように、誰もが過ごす学校という場所は、後々まで人の記憶に残る施設である。合築というこれまでにあまり例のない試みに挑戦した「王子小学校・王子桜中学校」は、少子化や教育改革が進む中で、今後増えていく新たな学校のモデルとして、また、まちの学校として、地域からも大きな期待が寄せられている。

設計担当者

東京事務所設計部 設計主任 山野信彦

東京事務所設計部 設計主任 小西聖子

設計担当者の肩書は、2010年12月の発行時のものです

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