障がいを持つ人たちを支援する、 地域の拠点として

岐阜県立希望が丘こども医療福祉センター・岐阜県立岐阜希望が丘特別支援学校・岐阜県福祉友愛アリーナ

福祉・医療・教育・スポーツ・文化芸術、そして就労支援。
岐阜県の障がい者支援の拠点として、整備・拡充された「ぎふ清流福祉エリア」

岐阜駅を北上すること約5キロ。長良川をわたれば、山並みがぐっと近づいてくる岐阜市鷺山・早田地区は、障がいを持つ人たちにも暮らしやすい地域づくりを目指す岐阜県が、県の障がい者支援の拠点として、施設の整備・拡充を進めてきた地区である。「ぎふ清流福祉エリア」と名づけられた同地区周辺には、それぞれの連携をうながすように、福祉・医療・教育・スポーツ・文化芸術、そして就労支援を行う10の施設が建ち並ぶ。
2015年夏の一期工事で竣工した「岐阜県立希望が丘こども医療福祉センター」(以下、こども医福センター)と「岐阜県立岐阜希望が丘特別支援学校」(以下、特別支援学校)。そして2019年春の二期工事で竣工した「岐阜県福祉友愛アリーナ」(以下、友愛アリーナ)と特別支援学校の体育館。
同じ敷地内に機能と役割が異なる建物を併設する。そんな複合施設の設計を担当した篠原佳則は、各施設が個々の役割を超え、有機的につながることで、暮らしやすい社会づくりに貢献することを目指したという。
「肢体不自由児の療育の場として、病院と学校は四〇年にわたってその役割を果たしてきました。建て替えに当たっては、利用者の目線に立ってデザインすること、また、今後、起こり得る変化に柔軟に対応できるように、建物の配置と動線についてシミュレーションを重ね、各施設をつなぎながら、明るく、足を運びやすい建物にすることを意識しました」

デリケートな対応が求められる病院、特別支援学校から、
社会参加の場になる友愛アリーナへ。西から東へと流れる建物の配置

老朽化に伴う建て替えを行う以前から、肢体不自由児のための治療・リハビリを行ってきた希望が丘学園(こども医福センターの旧称)。長期入院を余儀なくされる子どもたちに義務教育を行い、自立を支援するため、こども医福センターに学校機能を拡充するかたちで始まった特別支援学校。公式競技会場として、障がい者のスポーツ大会を開催できる設備を持つ友愛アリーナ。福祉エリアの機能の強化を目指し、一体整備を行ううえで、岐阜県は新しい施設に何を求めているか。聞き取りを行うなかで篠原は、これからの障がい者施設のあるべき姿を考え、県に提案を行ったという。
「聞き取りをするなかで、県は今後、これまで診てきた肢体不自由児だけでなく、不登校や引きこもりにつながる発達障がいや児童虐待に対応する児童精神科の在り方を模索しているのではないかと感じました。発達障がいは訓練によって改善されることも多く、早期発見が重要ですが、病院の敷居が高いと、子どもが訓練を受ける機会が遅れてしまいます。そこで児童精神科の利用者が心理的な負担を抱えず通院できるように通路や入口を別に設け、そのときどきに応じてルートを選択できる建物の配置や動線を考えました。全体の雰囲気を明るくするため、中庭も多く設置しています」
3つの施設は西から東へ、こども医福センター、特別支援学校、友愛アリーナと体育館という順で配置されている。これについて篠原は、
「病院の児童精神科は、あまり目立たずに病院に通いたいと考える人もいるように、デリケートな対応が求められます。これに対し、スポーツを通じて他者との交流が生まれる友愛アリーナは、社会性の高い場所です。道路をはさんだ東には就労支援施設や障がい者用のプールもあるので、敷地の東側は社会性が強く、西側は建物との関わりが私的になっていくという流れをつくりました。こども医福センター内にある、心身の発達に遅れのある子どもや家族を支援する児童発達支援センターに、病院内の通路だけでなく専用の入口を設けたのも、こうした配慮からです」という。
随所に扉と通路を設け、動線を整備したことは、異なる施設をつなぐうえでも大きな意味合いがあった。これまで小児医療の専門病院やこども発達センターの設計を手がけた経験から、施設の中で視線が通ること、人の動きが見えることの重要さを実感していた篠原が、この複合施設のシンボルとして提案したのが、直径約二四メートル、高さ八メートルの円形スロープで囲まれた特別支援学校のランチルーム「希望が丘ひろば」だった。
六本の丸柱の外側に設けた、1階と2階を緩やかにつなぐ円形スロープは、上下の移動空間にもなっている。特別支援学校の乙部理佳代校長は、
「車いすの子も、杖で歩く子も、踊り場まで頑張ってみようと自力で移動する。それが自然なリハビリにもつながっているんです」と話す。
病院と学校をつなぐ位置に設けた二層吹き抜けの円形空間、その明るさや広々とした開放感は、子どもたちも充分感じているに違いない。

複合施設のシンボル、吹き抜けの円形空間「希望が丘ひろば」
機能の異なるふたつの施設をつなぐための、構造設計上の工夫

病院と学校。機能の異なる施設をつなぐ吹き抜けの円形空間は、設計上、さまざまな工夫のうえに成り立っている。構造設計を担当した田口貴史は、
「階高も動線も異なるように、本来、機能が異なる病院と学校は、明確に分離したいというのが構造設計者の考えです。ただ、今回は希望が丘ひろばを中心にふたつの施設をつなぎ、一体化するというコンセプトがありました。中心に大きな円形空間を設けると、建物の構造上と機能上の分離が一致しないので、そこを整理することが課題でしたね」と話す。
希望が丘ひろばの吹き抜け空間は、六本の丸柱に沿うかたちで円形スロープが設置されている。だが、広い空間を覆う大きな屋根を支えるために、当初、田口は丸柱を八本にしたいと考えていたという。
「構造上、柱のところに踊り場を設けることになりますが、柱を増やせば、踊り場が増え、スロープが長くなってしまうため、六本で行こうという話になりました。大きな屋根は、6本の丸柱に4本のプレストレストコンクリート(PC)梁を交差した架構とすることで支えています」
また、二期工事では、特別支援学校の体育館と友愛アリーナを同じ敷地に、という県の依頼を受け、全国でも珍しい二層の体育館をつくるため、柱の位置や構造体の材料を検討し、建物の耐震性と安全性を確保している。
「階高が高くスパンが長い体育館は、剛性・強度とも小さいため、体育館外側のコアスペースの中に耐震間柱を入れています。また、上に載る友愛アリーナの屋根も鉄骨造で軽量化を図ることで、耐震性を確保しました」
車いすを使う子どもが雨の日も乗降しやすい屋根つき駐車場、雨天でも各施設の玄関まで濡れずにすむよう歩廊に設けたテント屋根など、利用者に配慮した外構部。児童生徒の自立と社会参加に向けて、パソコンを学ぶ商業関係室をはじめ、調理や陶芸を実習する特別教室を充実させた特別支援学校は、2016年11月に視察に訪れた当時の皇太子様から「木をたくさん使ったいい校舎ですね」とのことばをいただいたという。病院や学校に通う人だけでなく、そこで働く人にとっても快適な空間となった複合施設は、ソフトとハードの両面から障がい者を支援する場になっている。

設計担当者

理事 名古屋事務所副所長兼企画部長 篠原佳則

名古屋事務所構造部部長 田口貴史

設計担当者の肩書は、2021年3月の発行時のものです

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