建築から学ぶこと

2016/08/10

No. 535

穏やかな土地の、すがすがしい音楽

作曲家の名前が思い出せなくても、その作品は世代を問わず誰もが知っている。第520回で紹介した古関裕而(1909-1989)はそのような仕事をした人だ。この季節、夏の高校野球のテーマ曲「栄冠は君に輝く」(1948)をはじめ、阪神タイガースの「六甲おろし」(1936)、読売ジャイアンツの「闘魂こめて」(1962)、早稲田大学の「紺碧の空」などの応援歌は、多くの人がそれぞれ歌詞を覚えている。戦時下の戦意高揚の歌や、平和を願う歌「長崎の鐘」(1962)などを並べてみると、古関は生涯にわたって作品づくりのスランプがなかったように見える。
興味深いのは、元々ギリシアで作曲された「オリンピック賛歌」のオーケストラ編曲を手がけていることだ(1958)。編曲は日本から世界に向けての提案だった。それが好評を博し、1964年の東京オリンピック以降の大会で、オリンピック旗掲揚のおりに歌われ演奏される慣わしができた。私は長い間それが古関の手によるものであることを知らずに、ワクワクするような前奏(六甲おろしと同じような上昇音階がある)に心を躍らせ、その趣向を楽しみにしてきた。ソチでの冬季オリンピックはアンア・ネトレプコの独唱だったし、リオでは少年少女コーラス。平和を祈る前奏はいつだって古関編曲なのである。
古関の出身地・福島市は城下町で、現在県庁舎があるところが旧・福島城本丸で、生家はそこから程近い。福島藩は3万石でしかなかったのは意外で、都市にはそれ以上の器が感じられる。なお、本丸の一角にある小さな板倉神社には、藩主板倉家の祖・板倉重昌が祀られている。島原の乱を鎮圧した板倉重昌の血脈が、この地では景観を穏やかにつくる役割を果たしたのはほっとする。
この地に降り立つと、駅前の古関モニュメントが、1時間おきに鳴る、様々な名曲のオルゴールとともに迎えてくれる。新幹線福島駅の発車音も「栄冠は君に輝く」で、古関メロディのある福島は何だか平穏ですがすがしい。

佐野吉彦

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