建築から学ぶこと

2024/03/13

No. 909

創発性のある風景

最近、ある研究所が竣工した。ここでは、実験・計測のためのゾーンとは別に、アドレスフリーの緩やかなオフィスゾーンが設けられた。それは、着実に探究を進めながら、研究者間の対話の活発化を促し、創発性を導き、共同知の獲得へと至るスタイルである。同時に、セキュリティを切り分けた形で研究所外との連携スペースもあり、さらに新たな知見の誕生が期待される。最近増えているこのスタイルの背中を押しているのは、社会の新しい動きだが、何よりも企業のビジョン、研究のゴールが明瞭でなければならない。そして、スタッフには自発性と自己管理の姿勢が期待される。皆が無自覚にこの、緩やかなオフィススケープを採択したら、経営も実務もコントロール不能になる。ちなみに、チーム編成や規程、ネットワークの整備など、周到さが備わっている必要があるだろう。
ところで現代の都市にしばしば見られるのは、さらに緩やかさに満ちた風景であり、人々はいろいろな場所を選択して過ごしている。最近のオフィスは多分にそれを後追いしている。もっとも、多くの場合、都市は明瞭なビジョンがぐらついたまま成長してきた。それを正しく描く責任は政治家や都市計画の専門家にあるのだろうが、ビジョンが現実をスマートに牽引するのは難しい。もし都市にある創発的な空気を今後も活かそうとするなら、モデル予測制御の手法の適用などは面白いのではないか。
さて、3月11日は東日本大震災から13年目だった。年初には能登で震災があり、国土を揺さぶる難局はまだまだ続いている。災害復興のまちづくりの過程では、インフラの再建だけでなく、<暮らしの自由度>をいかに取り戻すかの課題も引き続き問われ続けるだろう。自然に創発性や民主主義が見える風景に向けて、様々なトライアルが期待される2024年である。

佐野吉彦

創発性の壁

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。