2016/09/21
No. 540
写真家・村井修さんは愛知県半田の生まれである。港町・半田はまさに文物が出会い交わるところ。美酒があり酢があり、和菓子の香りがする。多くの蔵が並び、様々なスタイルの良質の住宅が今も街角に息づいている。それらを受け継いでゆくことに誇りを感じる市民や企業にも恵まれているところだ。そのような、どこかはんなりとした半田の街並みの中に写真家・村井修さんは生まれ育った。カメラを向けた建築作品のなかに、建築家さえ気づかない色気を探り当ててきた大家の感覚はこの街で目覚め、一方で心はずっと半田の風景と切り離れていなかったと思う。
おそらくその風景の中には「半田赤レンガ建物」も含まれている(この連載第483回「半田赤レンガにある物語」(2015.7.22)で紹介)。もともと妻木頼黄が1898年に設計した丸三麦酒の工場は昨夏、安井建築設計事務所による改修によって半田市の文化施設に生まれ変わったのだが、私はこの場所なら半田の人々の協力を得て村井さんの作品展ができるのではないかと思い、そのアイディアを村井さんサイドに提供した。そこからの村井修さんご自身と村井家による奮闘はめざましい。展覧会を1年で実現させた力は村井さんの作品の価値ゆえであり、村井さんのこの街との絆ゆえであろう。
面白いのは、この写真展「めぐり逢ひ」(2016.9.16-10.16)が市内4箇所(「松華堂ギャラリー」・「旧・中埜半六邸」・「かめとも」)での同時開催になり、小さな歯車がいつしか街全体を動かす展覧会に広がったことである。街のさまざまな空間で村井さんの作品と出会うことができる。村井さんの魂がこもった丹下健三作品などが、穏やかな風光の中で味わえるのは楽しい。「半田赤レンガ建物」でおこなわれたオープニングには、半田市長も商工会議所も、地元企業も、交友のあった建築家たちも全国から駆けつけた。建築にかかわるイヴェントに分類するなら、これはなかなかの奇跡的なできごとであった。