2021/11/17
No. 795
経済学者ラグラム・ラジャンによる「第三の支柱―コミュニティ再生の経済学」は、国家と市場とコミュニティの三本がバランス良く機能してこそ、社会が健全に保たれるという立場を取る。それは歴史が積み重ねてきた真実でもあり、国際金融の現場を良く知る筆者ならではのリアルな眼差しでもある。そのうえで、三本のバランスが崩れかかっている現代を着実に組みなおすことを提唱し、どれかに偏する極端な政策に誘い込まれないよう警鐘を鳴らしている。
何よりも、コミュニティの活力は多様性によって生かされる。包摂性のあるコミュニティを追求することと、節度と現実的判断を兼ね備える国家を構想することとは関連するものだ。筆者は、国境を越える人の流動やデジタル化の進展も、着実に受容することによって、コミュニティ力を強めるはずと考える。コミュニティの持つ安心感も、現代の技術をうまく活用することで、新たな魅力とともに継承されることが可能だろう、と。
この本では米国や中国、インドといった大国それぞれにある改革課題というマクロな点に触れつつ、コミュニティ単位で実際に起こっている興味深い事例、そこから得られる知見を紹介している。たとえば「衰退するコミュニティの近隣に強い組織(政府機関、大企業、大学など)がある場合、たいていはその組織とコミュニティの間に何らかの壁がある。そうでなければ普通コミュニティは衰退しないはずだ」というところは、なかなか鋭い指摘だ。その壁を破るためには、ハード面の投資もあり、制度の改革や、再教育への投資を含めた人材活用策もある。その方策はそれぞれによって工夫が違ってよいだろう。
だからこそ、著者は国家の役割に大きな期待を寄せている。国家が確かな節度と現実的判断を兼ね備えて動けば、結果としてコミュニティは蘇るはずだ。それぞれの国家がボトムであるコミュニティの実態をふまえ、実行可能な国際的な協定・協約づくりに努めれば、安定的なバランスが達成できると考えている。