2010/11/17
No. 254
大阪の南のターミナルである天王寺。国鉄時代には天王寺鉄道管理局があり、近畿の南半分の司令塔機能だけでなく、近鉄や阪堺電車、かつての南海電鉄も含めて、南へのゼロマイル地点である。東京で言えば上野のようなざわざわとした庶民的な空気とともに、駅近傍には古い歴史の四天王寺、公園、動物園や美術館、進学校が共存する文化混交の地として現在に至った。大阪市立美術館の現館長である篠雅廣さんはこういう地域の個性を類稀なものと捉えていて、類似ケースを探せば、ブルックリン美術館(ニューヨーク)が似たような立地だと語っている。
1936年に竣工したこの美術館は、コレクションも調査研究機能も、まさしく正統的な美術を扱う拠点館である。もともと近・現代美術を専門とする篠さんは、ラインアップされているコンサバティブ寄りの企画テーマをそのまま引き継いでゆくという(明年のエポックは岸田劉生展)。この美術館の使命とは美術館のスタンダードであり続けることだと認識して、篠さんはその観点からさまざまな工夫を試み、提言をしてゆくようである。ちなみに、建築については旧・住友本邸敷地に座した風格あるものだが(前田健二郎が設計コンペ当選、のち大阪市土木部建築課が設計)、日本庭園<慶沢園>の豊かな緑を活かしつつ適切な将来像が描かれることも期待したい。
ところで、ここでは「住吉さん(すみよっさん) –住吉大社1800年の歴史と美術」が開催中である(11月28日まで)。歌に名高く、重要無形民俗文化財の御田植神事で知られ、今日も指導的な立場にある社の全容。私が見たなかでは、住吉大社固有のモチーフである松や鷺を後世がどう展開・活用しているかが興味深かった。歴史を丁寧にひもときながら、現代の眼差しと交わってゆく。まさに、文化混交の天王寺ならではの懐の広い企画であった。