建築から学ぶこと

2006/01/11

No. 16

回路をつなぐ、回路から始まる

TIME誌は、2005年の「persons of the year」に、ビル・ゲイツ夫妻とボノの3人を選んだ。世界の貧困に向きあって、積極的な行動を取った人たち、という評価である。このところ、マイクロソフトの会長であるビル・ゲイツは、妻メリンダとともに設立したゲイツ財団を通じて貧困の広汎な支援に取り組んでいる。ここで、ビリオネアであるビル・ゲイツの背中を押し、活動を支えるのはメリンダをはじめゲイツ家の人々。基本的に彼らは良識あるアメリカ人である。そして同じゲイツの背中を、おそらく、ぐいっと押したのがボノである。ボノはロックバンド<U2>のメンバーであり、20年にわたって貧困に対する支援をおこない、問題解決のための強いアピールを続けてきた人である。

彼らが選定されたのは、そうした実績への評価よりも、今後も継続したフィランソロフィー活動を期待してのことではないかと思う。何せ3人は現役バリバリの世代(ともに50歳以下)。彼らの行動が新たな潮流やキーパーソンを生み出すことになるのである。

2005年は、前年末のスマトラ沖の大津波やカシミールの地震、米国内のハリケーンなどによる甚大な被害が続発し、緊急的な支援が求められた年であった。それはまた、ハリウッドのスターも救援アピールの先頭に立つなどにより、幅広い層からの支援を掘り起こした年でもあった。多くの日常と多くの非日常とが少なくとも意識の中で繋がれたのである。ここにはメディアによる「想像力の呼び覚まし」効果があり、結果として「新たな、ボランタリーな関係性」が生まれたと言えるだろう。

3人は有名人ゆえに選ばれたかもしれないが、それはまた、新たな関係性をつくることの重要性とともに、定常的に繋がりをつくることの必要性を気づかせる。私の身のまわりで考えれば、日常の仕事を抱える建築家が、どういう問題にコミットし、どんな内容の貢献ができるかは難しい課題であるけれども、少し考えを手掘りしてみるべきであろう。向こう側にある、もがいている世界と、もはや関係なしとは言えない。

佐野吉彦

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