建築から学ぶこと

2011/06/08

No. 281

こころを結ぶ

社会学者のサスキア・サッセンさんが講演で、「都市を結びつけるグローバル・サーキット」について言及していた。例えばインドのムンバイは不動産開発と投資の世界センターであり、ニューヨークとサンパウロはコーヒーの商取引における拠点である。一方で重工業の歴史があるシカゴやソウル、東京や大阪は知識を基盤とした経済が育っているはずと指摘していた。こうしたグローバルなネットワークが多様にあることが都市の活力を支えるであろう、というものである〔摂南大学にて、5月28日〕。

都市の吸引力とは、こうした現実的な商取引に留まらない。観光による来訪・産学を問わず取り組みが進む共同知の創出作業なども含めると、都市が生き抜くためには、自由な線がいくらでも引けそうである。その中で、特定の都市と確実に結びあっていることはとりわけ重要なことである。たぶん、そこには人の心どうしが結びついているという事実があるに違いない。つまり、誰かによる、誰かへの具体的な働きかけ。どんな人にも、都市を結びつけ経済を動かす可能性が潜んでいるように思う。近接する都市同士の縁は大事であるが、離れた異質な同士が生み出す新たな価値にも期待してよいのではないか。遠さを乗り越えて結ばれるのが人と人とのあいだの信頼感であるなら、これほど人類にとって希望にあふれた話はない(都市間ではないが、フィンランドのオーランド諸島の領有問題にあたり、国際連盟の事務次官であった新渡戸稲造が裁定した成果は、両国間関係に重要な意味を持っている)。

先頃、函館の漁協から岩手県久慈市の漁協に228隻の漁船が無償提供されることになった。そこには函館市が1934年に大火に逢ったときに久慈市が支援したことの返礼の意味も含まれている。誰もが直面する災害というテーマは、ひとつの契機になるであろう。それとともに、80年近くにわたって両ポイントのあいだに同じ職業間の感覚の共有が保たれたことも大きい。同じプロフェッションは人を結びつけるには好適なものである。

佐野吉彦

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