建築から学ぶこと

2020/04/01

No. 715

トマス・ジェファソンのように

トマス・ジェファソン(1743-1826)はアメリカ合衆国第3代大統領である。彼は、米国独立宣言の起草者であり、信教の自由に関するヴァ―ジニア州法の起草者であり、ヴァ―ジニア州立大学の創立者であった。それらの業績を生涯の誇りとし、自らの墓碑に刻むことを望んだ。実際に、ジェファソンは国家の未来を信じ、そのかたちを整えた人である。いつもビジュアルなイメージを大切にし、その墓碑も、ヴァージニア大学のマスタープランも、生涯にわたる本拠とした居宅<モンティチェロ>も、自らデザインに取り組んだ。そのことから建築家と呼ばれることもあるが、総じて文芸の素養に裏打ちされた政治家と言える。「同胞たちよ、我々は一つの感性と一つの理性にまとまろうではないか。我々は人間関係に調和と愛情を取り戻そうではないか。調和と愛情がなければ、自由だけでなく人生そのものさえも侘しいものに過ぎなくなる」という、彩りのある言葉は、大統領就任演説で発せられたものである。
彼は、建国したアメリカが君主制や独裁制に流れないよう、働きかけをおこない、体を張った。その姿勢が後任の大統領たちも同様に「政治における言葉の力、民意の形成の正しさ、最も困難な時代にアメリカを堅固にするための大統領権限の強化の正しさを信じるようになった」と言われる。こういう理想的なふるまいは、しばしば現実の困難の中で立ち往生することがあるが、それも自らを鍛える局面になる。若き日のジェファソンは軍事司令官として弱く、また先住民や女性に対しては現代の倫理観では微妙なところもあった。でもそうした人間臭さはリーダーとしての深みにつながっている。
ところでこの感染症の時期、どの分野のリーダーたちにも、現実のなかで格闘していることだろう。そうしたとき、同じ立場にあるリーダーと知恵や工夫を共有することは重要である。たとえ一時的に移動の不便があっても、いろいろな手段でつながりを保ち、つながりを豊かにすることで、いろいろな効果が導かれる。リーダーシップが一皮むけるきっかけにもなるだろう。

 

引用は「トマス・ジェファソン 権力の技法」(白水社2020)に基づく。

佐野吉彦

人間味あふれるリーダー。

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