建築から学ぶこと

2016/10/26

No. 545

平尾誠二のノーサイド

卓越した能力を持ち、さらに周囲を触発するプレイヤーを持つチームは強い。かつてのスティーラーズ(神戸製鋼ラグビー部)では、爆発的なスピードの大畑大介やフィジカルの強さを誇る元木由記雄がそれに当たる。だが、同じチームでの上の世代にあたる平尾誠二はそれを違った形で上回っていた。フィールドにいる平尾は見るからに頑強ではないが、彼のループとかフィールドゴールの瞬間を間近で見ていて、独自のイマジネーションに興奮したものだ。スティーラーズがV3を決めたゲームの有名な連続プレーにおいても、平尾はここしかない場所にいた。その時期。チームのネットワークは活性化し、自立性を持ったチームができあがり、スティーラーズはしばらく監督を立てずにやっていけたのである(ヘッドコーチはいた)。
平尾が日本代表監督になったとき、同じ同志社大出身の土田雅人がコーチとして加わった。土田はサンゴリアス(サントリーラグビー部)でいかに組織プレーを究めるかに軸足を置いていたが、平尾は何よりも個人の意識を高めることに留意した、と土田は著書で記している。結局のところ、平尾は監督として目覚しい成果を残すことができなかったのだが、最大の難点は選手に自らのような自在な感覚のプレイヤーを得なかったことである。今、名監督と言われる清宮克幸やエディー・ジョーンズは、選手の自発性誘導以上に、強いコントロールを打ち出した名将だ。それが現状で日本ラグビーが勝つために最適なスタイルなのであろう。
それにしても、平尾は流れの中での問題を発見する感覚や、それを整理する言葉の切れ味がすこぶる良い。松岡正剛や経営学の金井寿宏との対談での平尾は、読んでもスリリングである。実は私も一度対談の機会があったが、彼はデザインとコンストラクションの役目の違いをきちんと認識していることに感心した。ジャンル間の壁をひらりと越える能力を持つ平尾にはこれから大いに出番があったはずだが、神が平尾を手元に呼び寄せてしまった。

(今回は敬称を略しました)

佐野吉彦

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