建築から学ぶこと

2019/05/29

No. 673

磯崎新は歩き続ける

建築家・磯崎新さん(1931-)に対する2019年プリツカー賞の授賞式が先日、ヴェルサイユ宮殿でおこなわれた(*)。建築の歴史と理論への深い洞察と、留まることなく進化・革新を続ける姿勢の両面が評価されたという。作品においては、つくばセンタービル(1983)のように、時代を変えてしまうような功績をいくつも世に問うてきた。磯崎さんの設計活動の舞台は大きな世界にあり、小さな地域にもあったが、それらの姿と精神はつねに骨太であり、どこかアイロニカルな表情が伴っている。学生時代の私のまわりでは最も人気のある建築家だった。
一方で、磯崎さんは仕掛け人としての確かな腕前も見せてきた。たとえば福岡の「ネクサスワールド」にある、自発性を引き出す都市計画(1988-91)。これはまた、建築家レム・クールハース(1944-)が世界で仕事を拡げるステップとなったプロジェクトでもある。また、くまもとアートポリス(1988から今も継続)の初代コミッショナーとして、磯崎さんはうまく八束はじめさん、鈴木明さん、太田佳代子さん、吉松秀樹さんたちに仕事を任せながら、地域の建築の質を高める取り組みを進めた。
授賞理由を読んでみると、国内外を問わず若い世代の建築家にチャンスを与えた、という点も評価されている。磯崎さんにある、同じプロフェッションに対する寛容な精神は、自らが出会い刺激を受けた人たちの魂を受け継いでいるに違いない。話は前後するが、毎年一人に授与されるプリツカー賞は今年で46回目である。日本人としては8人目なのだが、磯崎さんより若い世代が先に受賞しているのは、それだけ日本の優れた建築家の厚みを増していることを示している。磯崎さんの栄誉は、日本の建築設計への高い評価であると言ってもよいだろう。

 

* 毎年、場所を変えて意義深い建築で開催

佐野吉彦

1961年刊行の「現代建築愚作論」/著:八田利也(実は磯崎新と、建築史家・伊藤ていじ、都市計画家・川上秀光の共著と知られている)

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