建築から学ぶこと

2010/08/18

No. 241

博多の海と陸 -人と建築を結ぶ試み(上)-

博多の海上に出たのは始めてである。「MATfukuoka2010」(Modern Architecture Tour in fukuoka)の初日のクルーズに乗り込んで、博多湾をめぐる文化的背景・近現代の都市整備の変遷のレクチュアを受けながら、この街を愛でつつ揺られる1時間半。「MATfukuoka2010」にはこうした総覧的なプログラムのほか、福岡の学究たちによるレクチュアが組み込まれ、20世紀初頭から現代までの名建築へのスポットツアーが重ね合わさる。今夏で第2回目。色濃い3日間が進んでいった。

MATfukuokaは<建築文化の理解と普及>を目指すことを謳っており、そこに建築観光や建築教育という軸を設定し、ここに福岡市民のまちづくりへの意識呼び覚ましという軸を交差させている。運営に多様な人材をうまく絡ませているのがミソで、3大学(*1)の学生は裏方だけでなく、積極的なガイド役を務めている。私が参加したスポットツアーは西日本シティ銀行本店と福岡銀行本店(*2)であったが、学生や市民ボランティアたちからこの名作についてプロフェッショナルな説明を受けることができた。このあたり、産官学の連携がうまく結晶しているようすが伝わってくる。

扱いやすさもデザインも整っているガイドブックは学生が編集したものだ。ここには公共交通の利用方法が示されており、スポット各点の位置関係を知ることのできる手引きとなっている。都市とは人を結びつけるステージであるとともに、都市の建築とは、どこかでお互いが結びあうものであることを学生が理解し、手に取るわれわれが共通の認識に至る、ということになろうか。そういう<伝播>を、MATfukuokaは望んでいる。

ところで、イベント名のMATは大文字で、fukuokaは小文字である。これは試みがこの地に留まらない試みであることのメッセージであろう。MATが参考としているシカゴ建築財団の活動も、当地に閉じない思想を持つものであったわけだし。(次回に続く)

佐野吉彦

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