建築から学ぶこと

2018/07/25

No. 632

『美術館にアートを贈る会』のこと

私が代表を務める「美術館にアートを贈る会」の活動は2004年に始まった。これは、<市民が、すぐれたアート作品を美術館に寄贈する>アクションを通じて、市民・アーティスト・美術館の間に、作品を通じて確かな線を引くという視点に立つ。贈る作品は市民が選び出し、さらに広く参加を呼びかけて、小単位の拠出金を積み重ねて購入し、その作品にふさわしい場所(あるいは縁のある場所)に贈り届けるというシステムである。
これまで西宮市大谷記念美術館(作品:藤本由紀夫)、和歌山県立近代美術館(栗田宏一)、滋賀県立近代美術館(伊庭靖子)、伊丹市立美術館(今村源)で、そのつど工夫を重ねながら実現させてきたが、何と言っても<あえて、関係者を増やすこと>がポイントである。どの経過の中でも贈る会のメンバー・アーティスト・美術館とのあいだで意見を交わし、思いをきちんと重ねるよう努めた。プロセスが成立するには平均して2年ほどかかる。それは関係者の相互理解の歳月でもある。そして今月、同じような経過を踏んで今回の第5弾寄贈プロジェクトとして、児玉靖枝さんの作品が神戸にある兵庫県立美術館へ贈られる運びとなった。
この活動の原点は、じつはその神戸を襲った1995年の阪神大震災にある。そのとき、甚大な被害を受けた地にある美術館が、住民避難のために館を開放する画期的なできごとがあった。地域の危機状況のなかで、美術館とは誰のものか、という設問が芽を吹いた。美術館は、管理者・作者・鑑賞者それぞれにとってかけがえのない存在であるべきで、かかわりあう人々が、作品を媒介して、美術館の価値と、美術館のある地域の未来について、前向きに連携することが重要だと思う。創設メンバーは、議論のなかから、今日まで続く試みを掘り当てたのであった。
いつの時代のどの災害も、結果として地域のつながりを問い直す契機になってきた。「美術館にアートを贈る会」も、災害にはじまる、社会に向けた問題提起アクションなのである。

佐野吉彦

かくして、兵庫県立美術館に絵はおさまる(左から蓑豊・館長、私、児玉靖枝さん)

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