建築から学ぶこと

2023/09/13

No. 884

平和ミュージアムで考える、建築の原点

立命館大学国際平和ミュージアム」(京都市北区)は、同学の教学理念<平和と民主主義>に基づき、1992年に開館した。初代館長は加藤周一氏で、同学には同氏の名前を冠した「現代思想研究センター」があり、図書館には「加藤周一文庫」(蔵書、手稿など)がある。この9月にミュージアムはリニューアルされ、直接的な戦争、人権抑圧を含むさまざまな暴力の実相を理解し、今後のために知恵を汲み上げるという目標が、より明瞭になった。このところの環境をはじめとする多様な危機も、じわじわと人権の侵害につながり、生活基盤の破断をもたらすことを考えると、このミュージアムが提起する問題は重要なものがある。大学がこうしたミュージアムを持つ例は世界的に少ないだけに、ここから学究と連携した発信の充実が期待される。
さて、紀元前から建築設計というプロフェッションが継続する道程で、まず、建築は<人の尊厳>を守るためにつくられた。建築は雨風をしのぐだけではなく、そこに住まう者に安心を与え、明日への希望を感じさせる役割を果たしている。さらに、一個人で完成させるのではなく、多様な専門性が集まって建築ができあがるという点では、生産プロセスにおける<連携>はコミュニティの安定性を支えているとも言える。そして、建築の存在が他に迷惑を及ぼすことがないよう、自律的に配慮したり、共通ルールを定めたりすることによって、専門家の<社会的責任>を果たしてきた。
そのようなことをリニューアル設計に関わりながら考えをめぐらした。特に<人の尊厳>の視点の積み重ねこそ、まさにミュージアムが訴える平和につながってゆくものである。まさに、建築をつくる原点・原理こそは世界の基底を支えることになるのではないか。建築の学生に見てもらえるといいのではと思う。

佐野吉彦

施設間を結ぶ、光の帯。

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