建築から学ぶこと

2014/01/22

No. 409

アフリカに花開く、日本の知恵

昨秋のオリンピック誘致のためのスピーチで、安倍首相はスポーツインストラクターの国際的派遣について語り、得点を稼いだと思われる(私見。第392回参照)。「スポーツ・フォー・トゥモロー」と名付けられたこの政策は、年初に首相が訪れたエチオピアでのスピーチにおいても登場した。この場では「エチオピア・カイゼン・インスティテュート」の始動についての表明があり、アフリカのビジネスを担う若い世代を積極的に育成し、「これは日本とアフリカをつなぐネットワークを育ててもらうとするイニシアティブである」と述べていた。その他訪問したアフリカ各国でも、これまで主軸であった経済支援以上に、民間交流・投資・経済活動に重きを置く方向を提示している。

日本政府としては、アフリカからの資源調達を日本の繁栄と結びつけることは重要な関心であるが、アフリカ各国が工業・農業ともに内発的に発展してゆくことがさらに安定的な国際関係基盤をつくる。安倍イニシアティブは的を射たものではあるが、アジアーアフリカの良好なネットワークという視点で言えば、ライバルと捉えがちな中国はじめアジア各国との連携も必要である。国際ルールを固めながら共存共栄を図ることは地域・広域の安全保障につながるであろう。

実際には、途上国には貧困に由来する、解決すべき課題がまだまだある。それだからこそ、技術的な革新を生みだす可能性もある。たとえば、建築家である、坂田泉さんとディック・オランゴさんのチームがケニアで取り組む試みは、多くの問題提起にあふれる。「循環型無水トイレ」と呼ばれる、彼らがLIXILと連携して開発したインフラフリー・ユニットには、し尿と生ゴミ処理システム、雨水タンクと蓄電システムなどが組みこまれている。インフラがほとんど整わない地区に、最新の技術を統合した多目的自立型のマシンとして機能するものだ。メンテナンスの体制の構築は今後のテーマだが、衛生面での人心の安心が得られれば、当地の内発的発展を大いに支えるであろう。なお、このユニットは、エネルギー消費社会の将来、災害時の仮設ステーションに対しても示唆に富む。技術革新も政治の革新も、アフリカでの取り組みのなかに重要な知恵が潜んでいると言えそうである。

佐野吉彦

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