建築から学ぶこと

2008/11/26

No. 158

可能性が花開く瞬間

英語にmake senseという言いまわしがある。20年前、アメリカの設計事務所で仕事をしていたときに使い方を覚えた表現だ。少し複雑な、あるいは理解されにくい作業をしていると、打ち合わせや立ち話などで、ボスや同輩が説明を求めてくる。私の意図に納得すると、彼/彼女らは、oh, that makes sense.と最後に添えるのだ。これを堅苦しく訳せば、論理とその結果の一貫性(consistency)を確認し、その頭のなかに像が結ばれた瞬間を示していると言えようか。作業をしている側からすれば、悶々と試みていたかたちが発現し、共有され、現実のものになる可能性が開いた瞬間でもある。

さて、アメリカの第3代大統領であり、アメリカの独立宣言を起草したトーマス・ジェファーソンは、建築に強い関心があった。教育がこの国の基盤を成すことを確信してバージニア大学を設立し、そのキャンパスのデザインにも取り組んだ。彼は、教育理念を体現するものとしての建築の意義を理解していたようで、学ぶ者の頭のなかにかたちを介して理念を正しく定位させようとしたと想像できる。

多かれ少なかれ、この国に生きる人々はジェファーソンの足跡をたどってきたのだろう。第44大統領となるバラク・オバマは、当選後にシカゴグラント・パークで催された演説で、群衆に向けて、この勝利はあなたがたひとりひとりに帰属するものであると述べた。そして「希望」について熱く語り、皆でそれを目指してゆこう、と締めている。われわれが乗り越えてきたように、われわれは達成できるはずだ(yes, we can)というフレーズとともに。この理念を頭のなかに定位させ、広がりを持ったものとすることにオバマは成功したのである。

グラント・パークはシカゴの街を焼き尽くした大火からの復興を象徴する大公園である。シカゴは多くの建築運動や社会運動の理念を培養したように、アメリカの新しい展望を共有する場所となったわけだ。Yes, that makes sense.

佐野吉彦

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